「あら、初日に遅刻とはやってくれるわね」
 先生は、僅かに笑みを浮かべながらそう言った。
 笑みを浮かべているからこそ、どこか怖い。
「あの……えぇっと、寝坊……しちゃって……その……」
 言葉を探している私に笑い掛ける。
「分かったわ。いつまでも春休みの気分じゃ駄目よ」
 教室中がざわつく。
 笑っている人もいれば、どこか上の空な人もいる。
 そういえば、マミちゃんは……。
 教室内を見渡すと、窓際の一番奥の席に彼女の姿がある。
 マミちゃんは私を見る事なく、ただ無感情に窓の外を眺めていた。
「えっと、平井優子ちゃんね」
「え? あ、はい」
「私は藤原博美。今年から五年二組の担任をさせてもらいます。宜しくね」
 私は慌ててお辞儀をする。
「あっ、はい! 宜しくお願いします!」
 おかしい。
 どうして先生は、麗太君の名前を出さないのだろう。
 さっきから一緒にいるのに。
「麗太君」