一週間後、麗太君のママの葬儀が行われた。
 私を含め、皆が黒くて堅苦しい服装をしている。
 黒という色が、余計に気分を沈める。
 葬儀場には、麗太君のママの親類や友人、もちろんママや私も参列した。
 しかし、ただ一人だけ。
 一番いなくてはならない人が、そこにはいなかった。
 麗太君のパパだ。
 ママは彼に関して、何かを言う事はなかった。
「あの子、沙耶原麗太君でしょ?」
「そうそう。まだ、小さいのにお母さんを亡くしちゃって。沙耶原さん家のお母さん、随分と若かったのにねぇ」
 周りからの同情の眼差しや声が、麗太君に集中する。
 彼は私の服の袖を、ギュッと握った。
 そういえば、ママはどこへ行ったのだろう。
周りを見渡すと、他の参列者の人達と何かを話しているのが見える。
 今、麗太君を守ってあげられるのは、私しかいないのだ。

 お坊さんの棒なお経と共に、参列者が線香をあげる為に、列を作って仏壇を周る。
 ママの番が来ると、私と麗太君に「こうするのよ」と言い、線香に蝋燭の火を灯し、灰の積もる線香立てに差した。
 次の番が周って来た私も、ママと同じ事をする。
 線香を差した時、棺の中で眠る麗太君のママが僅かに見えた。
 透き通った白い肌や穏やかな寝顔、およそ遺体には見えなかった。

 葬儀が終わると、火葬場へ遺体を運ぶのだそうだ。
 参列者も、それに同行する事になっている。
 つまり遺体を焼いた後、出て来た遺骨を参列者が専用の箸で拾う、という事らしい。
 それを聞いて、背筋が凍った。
 遺骨の骨を箸で拾うなんて……そんな光景を見ただけで、私は泣いてしまうかもしれない。
 逃げ出したい。
 しかし、そんな事をすれば周りの人達に迷惑が掛かる。
 麗太君のママの死に、皆が悲しんでいるのだ。
 私の自己中心的な行動で、場の空気を壊す訳にはいかない。
 今は我慢するしかないのだ。
 葬儀場から、参列者貸し切りのバスで、火葬場まで行く事になった。
 窓側に私、真ん中にママ、その隣に麗太君で、バスの一番後ろの席に座った。
 バスが走り出す。