きっと、何を言っても無駄だと気付いたのだろう。
 懸命な判断だ。
 私にとって、週に一度の楽しみにしている番組へ掛ける情熱は、他人からとやかく言われて揺らぐものではないのだから。
パジャマのまま部屋を出て、階段を駆け下りてリビングへ行くと、テレビ前のソファーには先客がいた。
麗太君だ。
私と同じで、まだパジャマを着ている。
「おはよう」と挨拶をし、麗太君の隣に座った。
 麗太君は私に、軽くお辞儀をする。
 やはり喋れない事ほど不便な事はない。
 挨拶をされても、それを単純に返す事すら出来ないなんて。
 しかし、いつも麗太君は笑い掛けてくれた。
 
そういえば、私より早く起きて、麗太君は何を見ているのだろう。
テレビに視線を向ける。
どうやら、プリキュアの前の時間に放送中の特撮番組の様だ。
この番組、なんとなく知っている。
 たしか……クラスの男子達が、よくポーズを決めて『俺、参上!』等と言っていた事があった。
 おそらく、それだろう。
 麗太君も、やっぱりこういうのが好きなんだ。
「やっぱり、男の子なんだなぁ……」
 テレビの画面を見ながら呟いた時だ。
「優子だって、プリキュアとか見てるじゃないの」
 私と麗太君が座るソファーの後ろには、いつの間にかママが立っていた。
「ちょっと、いつからいたの?」