突然、何を言い出すのかと思えば、先程までの思い詰めていた表情は、これを言う為だったのか。
 困った事……悩み……。
 そんなもの、あり過ぎて何を言うべきか分からなくなる。
 中学受験、お母さん、クラスの女子。
 というか、綾瀬は私の何の悩みについての相談を持ち掛けているのだろう。
「ほら、由美とかの事……。お前、気付いてるんだろ?」
 密かに悪口を言われているだけで、今のところ私には直接の被害はない。
 というか、私が彼女達に近付かなければ、何も起こらない筈だ。
 その事を綾瀬に告げると、彼の頬がホッと緩んだ。
「そっか、よかった。この前、あいつらがマミの事……その、マミの悪口を言ってたから……」
「考え過ぎ。私は何度も陰口を叩かれた事はあるけど、被害にあった事はないんだから」
「本当に、何かあったら言えよな」
 綾瀬は本当に私の事を心配してくれている。
 心配してくれる人がいる。
 優子とはどこか違う、別の友人。
 そんな綾瀬の事を、私はクラス内の男子の誰よりも気に入っていた。


 学校の帰りに、優子の家に寄った。
 優子のお母さんに、マフィンを作ったから食べにいらっしゃい、と呼ばれたから。
 なんだか優子のお母さんに対して、いつも家にお邪魔してしまって申し訳ない。
 学校からの帰りも一緒の優子には、気を張る必要はないけれど。
「すいません。今日はこの後に用事があって」
 少しだけ早かったけれど、夕方前に優子の家を後にした。
 帰りに「いっぱいあるから」と言って、マフィンも持たしてくれた。
 用事がある、なんていうのは嘘だ。
 優子のお母さんは優し過ぎる。
 だからこそ辛い。
 ここ最近の私は何かがおかしい。
 苦である事にはとっくに慣れていた。
 でも、どうしてか優しくされるのは……逆に辛い。

 優子の母さんが持たせてくれたマフィンを持って、家に帰った。
 玄関の鍵は閉まっている。
 お母さんは出掛けているのだろうか。