『自分が病院に通っている事は、優子には内緒にしてほしい』
 そう麗太君から頼まれた。
 だから優子には、麗太君の病院通いについては何も言っていない。
 それで一時的なバランスは取れている。

 電話を掛けてきた先生の話は、麗太君の容体についての事だった。
 先生の話では、ここ最近の麗太君は少しではあるが、愛想や雰囲気が明るくなったと言っていた。
 今の生活に慣れてきた事もあるだろうけど、きっと大半は優子のおかげだ。
 優子は、私が言った通り麗太君の支えになってくれた。
 いや、麗太君にとって、それ以上の存在になったのだ。
 嬉しい事ではあるのだけれど、なぜか少しだけ悲しくも思えた。


 暫くして、優子と麗太君が帰ってきた。
 余程、楽しかったのだろう。
 二人は楽しそうに笑っていた。
 麗太君は会ってすらいないのだ。
 自分の母親を目の前でひき殺した男の存在を。
 麗太君のパパは、彼に何も話していない筈だ。
 本人は、事故を起こした相手を、どう思っているのだろう。
 その真意は、私が踏み込んでいいような範囲ではない。
「ママ、目が赤いよ! どうしたの?!」
 優子が私の顔を覗き込む。
 麗太君も、心配そうに私の方を見ている。
「何でもないわ」
 軽く目を擦る。
 先程までソファの上で泣いていたからか。
 格好悪いところ見せちゃったなぁ。
「ママ」
「何?」
「寂しかったら、いつでも言って。私も麗太君も、何か出来る事があったら何でもするから」
 優子と麗太君は、私に笑い掛ける。
「そうね。二人とも、頼りにしてるわ」
 そうだ。
 私には、まだまだ信頼してくれる家族や友人がいる。
 どんなに状況が変わっても、私は一人じゃないんだ。