沖田は燐の手を
ひいて、八木邸の中に
入っていった。

「近藤さーん、
土方さーん
居ますか?」

そう叫んでどんどん
奥に進んでいく。

沖田と繋いでいる
燐の手に少し力が入った。

未来から来た燐は、
新撰組が好きで
その中でも土方が好きだ。

だがそれは
歴史上の人物だからだ。

鬼の副長。

そぉ呼ばれていた
本人に会うことなど
無いと思っていた。

普通に生活をしていれば
会う事などまず
あり得なかったのでろう。

かと言って、此処で
逃げ出した所で
行く当ても無いので
大人しくする他無い……

女は度胸。

そう言い聞かせた。

廊下をずんずんと
進んでいく沖田。

その時、
誰かが声をかけて来た

「総司、その子誰?」

「この人は守山燐さん
詳しい事は
後で話しますよ平助」

どうやら彼は八番隊組長、
藤堂平助らしい。

「は、始めまして
守山燐です
以後お見知りおきを」

「俺の名前は藤堂平助
よろしくね燐ちゃん」

「はい」

緊張して声が
裏返りそうになった。

平助で緊張など
していたら近藤や
土方の前で声が
出なくなって
しまうので
はないだろうか。

その時、
襖を勢いよく開いた。

スパーン。

効果音を
付けるならこんな感じだ。

一瞬だけ
燐の手を放した沖田が
土方の部屋の
襖を勢いよく
開けたのだ。

沖田に引っ張られて来た
燐はどうやって此処
〔土方の部屋〕まで
来たのか道が
さっぱり分からなかった。

そして何故か、其処には
都合よく近藤まで居た。

「総司、
襖をいきなり
開けるなと何時も
言ってるだろ」
と土方が、怒鳴った。

「で、その女は誰だ?」

かなり怪訝な顔で
燐を見た。

さすが、鬼の副長……

迫力満点である。

燐は沖田の
後ろに隠れるように
一歩下がった。

「私も知りたいですね」

沖田達が来たのとは
反対側の廊下から歩いてきた
人物にそう言われた。

仏副長
(のちの仏の総長)
山南敬助である。

仏と呼ばれるだけあって、
燐を見てさほど
気にしていない様子だ。

「山南さん」

「燐さん
もう一人の副長、
山南さんですよ
って言わなくても
分かりますよね」

沖田の言葉に
少し苦笑いの燐である。

土方・近藤
そして山南は、
沖田の言っている意味が
さっぱり分からない

それはそうだ。

一斉に燐を見る……

その視線がやけに痛い……

「おい、総司、説明しろ」

「それは私が
説明する事では
ありませんよ」

ますます、
意味が分からない、
土方達である。

「お、沖田さん」

「何ですか?燐さん?」

「いえ、何でも……」

〈わたしが説明する他
ないんだろうな〉

〈でも、未来から
来たなんて普通の人なら
信じてくれない

沖田さんは
信じてくれたけど。
そもそも、何で沖田さんは
信じてくれたんだろう?
いや、分からない。〉

心の中では
疑ったままなのかも
しれないしと一人で
あれこれと悩んでいる燐。

決して沖田を
信用していない
訳ではない。

むしろ、此処まで
連れて来てくれた
沖田には感謝している。

でも、やっぱり少し

引っ掛かる部分が
あるのは何故だろぉか?

しかし今、それを
考えた所で答えは
見つからないだろぉ。

トリップしかけていた燐は

「燐さん」と
沖田の呼ぶ声で
自分が新撰組の
屯所に居る事と
沖田以外の三人が
自分をじっと
見ている事に気づいた。

山南は笑顔。

土方は早くしろっと
言う感じ。

近藤はただ、
燐を見据えて居た。

内心、冷や汗が
ダラダラである。

何も言わない燐。

そんな時、タイミング良く
沖田が三人に
向かって言った。

「そんなに見ていたら
燐さんが緊張して
話せないじゃないですか」

彼は計算して
やっているのだろか?
それとも自然に
やっているのだろか?

燐が切羽詰った時や
困った時には
タイミング良く
フォローしてくれる。

「近藤さん 土方さん。
幹部の皆を此処に
集めてください」

「そしたら、燐さんが
お話しますから」

「ね、燐さん。」

燐のを方を振り向いて

笑顔で言った沖田。

しかし、その笑顔は

今までのモノとは違って、

有無を言わさない

という感じの笑みだった。

〈沖田さんって
絶対に腹黒だ〉

燐は心の中でそう思った。

「はい」

「よろしい」

笑顔だが
目が笑っていない。

まるで、
敵を見るような目である