意を決して、燐が口を開いた。

「あのですね、
沖田さん達は今は壬生浪士組と
名乗っていますよね?

しかも、
〔壬生狼〕なんて言われている」

自分が未来の人間だと
説明するために話し始めた。

「何故それを?」

「ですから、未来から来た
と言ったじゃないですか。

まぁ、それだけで
信じろなんて言いませんけどね。

此処まで話しといてなんですが、
信じろなんて初めから無理ですよね……

その証拠にわたしに
対する警戒心が丸出しですよ」

わからなくもないけど。

「……何故私が警戒していると
分かるですか?」

目の前の彼は不思議そうだ。

「未来は違う意味で
この時代より危険ですから……」

「それは何故ですか?」

燐の表情(かお)を
見れば質問もしたくなる。

「この時代は、
刀を持ち殺したり
殺されたりしてしまう
時代ですが、皆さんは
志を持ち、
その志のために人を斬る、違いますか?」

「……」

沖田は何も言わなかった。

自分達のしている事が
本当に正しいのか
分からないのだ。

「しかし、未来では、
刀は持ちませんが
だからと言って
安全な訳ではなんです、むしろ、
未来の方が危ないんですよ」

誰彼かまわずという
時代になって
しまいましたから……

何処か遠くを
見るような目をした燐。

「肩がぶつかったとか、
むしゃくしゃ
してたからとか
くだらない理由で、
落とさなくてもいい
命が奪われているんです」

「そうですか」

それを聴いた沖田は
少し悲しそうな
表情(かお)をした。

だからと言って
警戒心を解いた訳ではないが……

「ですから、沖田さんが
警戒している事は
すぐに分かりました。

傍から見れば、
ニコニコしてる沖田さんが
警戒してるなんて
思わないでしょうけど
わたしには通用しません。

おっと、
話がそれましたね(笑)

ですが、わたしの
言ってる事は事実ですし
浪士組……後の新撰組が
どうなるのかも知っています」

「やはり、
信じがたい話ですね……」

そう言われることは
最初から分かっていた。

「では、今夜何が起こるか
言いましょうか?

それが、当たれば、
わたしの話を信じて頂けますか?」

「う〜ん」

考えあぐねている沖田。

「分かりました
今夜何があるのか教えて下さい」

半信半疑ではあるが
訊くだけ訊こうと思ったみたいだ。

「浪士組の局長の一人に
芹沢鴨と言う人が居ますね?」

一応、確認する。

「ぇぇ、芹沢さんが
関係しているんですか?」

「そうです。

二日後、沖田さんたちは
芹沢鴨を暗殺します。

何も起こらなかった時は
わたしを斬って下さって
かまいませんが
わたしの言っている事が
正しかった場合、
屯所に置いて頂ける様に
取り計らって頂けますか?」

沖田は自分の耳を疑った。

なんせ、燐は沖田を
真っ直ぐ見据えて
“何も
起こらなかった時は
わたしを斬って下さってかまいませ”
なんて普通の女性なら言わないからだ。

「貴方はあっさりと、
斬って下さいなって言いますが、
死ぬのは怖くないんですか?」

つい聞き返してしまった
沖田は悪くない。

「はっきり言えば怖いですが
この時代に来てしまった以上は
覚悟は出来ています。

敵とみなされれば斬られるのは
十分承知の上ですし、本当ならば、
最初にお会いした時に
斬られていたかも
知れなかったんですから」

淡々と話し続ける燐。

「でも、沖田さんは
わたしの話を聴いてくれた。

それにわたしは、
自分が余り好きじゃないんです」

そう言った燐の目は
何処か悲しそうだった。

燐の思いも寄らない
言葉に先ほどまで
警戒していたはずの
相手を沖田は
自分でも知らずの内に
抱きしめていた。

体が勝手に
動いていたみたいだ。

「お、沖田さん!?」

さすがに燐も
驚いたようである。

「自分を好きじゃない
なんて言わないで下さい。

私は、知らず
知らずの内に貴女に対する
警戒心を解いてしまっていたのに
貴女は気づいていなかったですね」

燐は今、間抜けな
顔をしているだろう。

「え……?」