この世の中の何よりも

「ずいぶん、派手になったのね?」
地味で目立たなかった雅ではなかった。
いまどきな服装を身に纏い、髪もワックスで立て、色も染めている。
「何で・・・ここに・・・?」
雅の顔色がどんどん悪くなっていくような気がする。
土気色に変色していっている。
少しは悪いことをしたと思ってくれているの・・・?
「何のようだよ!今更・・・解ってんだろ?!お前は俺に騙されたんだってことはよ!」
まくし立てるように怒鳴る雅。
一気に頬が上気していくのが見ていてわかる。
興奮している。
いまにも飛び掛ってきそうなくらい。
「何しにきた・・・?」
私は一切言葉が出なかった。
探して探して漸く目の前に現れた尋ね人。
愛しくて愛しくて。
だからこそ裏切ったのが許せなくて。
何をしに?
復讐をしに。
具体的には?
・・・考えた事もなかった。

私は復讐復讐と言いながらも、実際にはどうするかなんか考えた事がなかった。
ただ許せないと。そう思った。

でも、眼の前にいる雅を見ると・・・
忘れていた愛しさがこみ上げる。

解っていた。
最初から。
私はただ、雅に会いたかっただけ。
雅の顔を、姿を見たかった。
声を、息づかいを聞きたかっただけ!

「何も?ただ、会いに来たの。いけない?」
気づいたらそう口走ってた。
困惑するような雅の顔がなんだかとても嬉しくて。
歓迎されていないとわかってても、雅の顔を見るだけでシアワセで。
バカな女と自分で思っても、それでもこれでよかったと思える自分が、なんだかとても愛しくて。

今も私は雅を探してる。
あれからも私から逃げる雅を私は追いかける。
自分を貶めてでも、私は雅に会いたいと思うから。
何を望むわけでもない。
ただ、またあの雅の困惑する顔を見てみたくて。
私は雅を愛している。
この世の中の誰よりも。

私自身よりも・・・。