「…はやく会えるといいわね」

いつもそうだ。
母は僕に
「こよいに会わせてあげるわ」
とは言わない。
「それはこよいが決めることであって、私が決めることじゃないの」
目を細めながら、彼女はそう言うのだ。

「それより、ほら、そろそろ仕事の時間よ?」

と僕のティーカップとクッキーを自分の方に寄せる。
「はやく、はやく」

焦らせようとする母に思わずにやけてしまう。
そういえば昔から僕は何をするのもマイペースでせっかちな母によく焦らされたものだ。

「行ってきます」

まだ少しだけ蝉が鳴いている昼過ぎはどこだか涼しげだ。