恋人なわけじゃない。
彼女の唇が俺を見て、好きだと、小さく動いただけ。
それだけで心が締め付けられる程動いたのに。
彼女が去って行った屋上で一人、雲一つない空を ずっと眺めていた。
「サボリとはいー度胸だなぁ紅(こう)。」
「・・とか言って和也もふけてんじゃん。」
声だけで誰だかわかる。
振り向かずに答えた俺の背後に立つと、呆れた様な声で呟いた。
「自殺でもする気かよ?落ちたら即死だぜ」
「同じ様な事言わないでくれる?」
デジャブを見てる気分だ
「何かあったのか」
「・・・・」
珍しく真面目な声に振り返ると、表情もなく俺を見据える和也が居る。
「別に何も。」
「そうか。」
別に何も?
本当に何もない。
ただ元にあった位置に駒を戻しただけ。



