「リカ?」
「なぁに?」
夜景を見下ろす私に
和也はベンチに腰掛けたままで
後ろから呼び掛けた。
優しい、声…
柔らかな、表情…
暖かい、空気が流れる。
「ねぇ、ここ座ってよ」
そう言って
自分の隣りを指差した。
「何か、話して」
「何を、話す?」
「リカのこと、教えてよ」
「いいよ、何でも聞いて」
ベンチに並んで座り
少しだけ肩が触れ合って
ほんの微かに体温が伝わる。
あまりに近過ぎると
私は和也を、すぐに
抱き締めてしまいそう…
だから、話すなら
ちょうどいい距離だよね。
「俺のこと
うさん臭い奴だって思った?」
「お蕎麦を一緒に食べようって
言った時は、少し思った」
「アハハ、そうだよな~
俺でもそう思ったもん」
もっと他にマシな
誘い方ねぇのかよって
自分でもそう思ったって
笑いながら話した。
でも何度か見掛けて
ナンパみたいに
街中で声を掛けても
話しさえ
聞いてくれない気がして
だからこれでも
作戦を考えたんだよって
そんな事も話してくれる。
最初の挨拶で
「ただの隣人」って
決められちゃうと
後が近付きにくいと思ったから
最初が肝心だったんだ…
って照れたような笑顔で話す。
「どうして?」
「何が?」
「だから、どうして
そんな風に私に
近寄ろうとしてくれたの?」
「何で、だろ?」
少し首を傾けて
ニコリと笑い
自分でも
分からないという顔をした。

