「あの~」

「あっ、ゴメンなさい。
印鑑?」

ふと、ぼんやりしてた。


ドアを開けながら

ドアを開ける意味も
何のための来客なのかも

私にはどうでもいい事
みたいに思っていたから

だだチャイムが鳴ったから
ドアを開ける

その行動に
「気持ち」なんて無かった。



「宅急便じゃ
ないんだけど?」

表情なんて
見てなかったのに

笑いながら
言ってるのが分かる
明るい声だった。


耳障りのいい
少しハスキーな低い声。


顔をあげて
やっと彼を見たときに

また柔らかい風が吹いて
甘い香りが鼻をくすぐる。


なんて、キレイな
男の子なんだろう…

間違いなく
男の子だよね?


大きいけれど切れ長で
印象的な澄んだ目は

目尻が下がり
柔らかい表情で笑っていた。


「…かずやって言いますけど
えぇ~っと、聞いてます?」

「あっ、ゴメンなさい。
かずやくん?
で合ってる?」

ぼんやりしていて
名字なんて聞いてなかった。


“かずや”と
名乗った名前だけが
かすかに聞こえただけで

彼の屈託ない笑顔に
惹き付けられて

何のためにこんな若い子が
訪ねて来たのか考えずに、

甘い香りのする
笑顔を見ていた。