それから彼は、この地域に
住んでいるのでは無いから
近くで買えるショップは
分からないと言った。
でもタクシーに乗って
ブランド名を告げれば
必ずそのショップに
連れていってくれるよと
この香水の名前を
メモしてくれた。
とても親切で
紳士的だった彼は最後に
「ワタシト、オナジ、コウスイノ、コイビト?」
「ええ、そうよ」
「ナマエ、ハ?」
と、何だか
優しそうな笑顔で聞く。
「カズヤ…」
「カズ…?
ニッポンノ、“和”トイウ、ジ?」
「そうよ、和風の、和」
小さな子供に
話すようなスピードで
ゆっくりと喋った。
「ステキ、ナ、ヒト、デスカ?」
「ええ、もちろん。
あなたに負けないだけ
ステキよ」
彼は大きな声で笑って
「アナタ、モウ、ナイテ、ナイネ。
ワラッタ、カオ、イイ、デス!」
そう言って
私の頬にチュっと
親しみを込めたような
キスをした。
「シアワセ、ニガシチャ、ダメ、デスヨ!」
肩をすくませるような
大袈裟な動作で笑い
彼は手を振りながら
人込みの中へ消えた。
私も笑いながら
「ありがとう」
と手を振った。

