あんなに和也を思い出せる
香水の
名前さえ私は
聞いていなかった。
いつも近くにありすぎて
身近に感じすぎて
名前さえ必要がなかった。
和也の、香り…
それがこの香水の
名前になっていた。
アメリカに来て
和也を感じないように
少し気持ちを
抑えていられたのは
この香りを
感じられなかったからだと
思ったりする。
タクシー乗り場で私の後ろを
彼が通り過ぎた瞬間から
不思議だね
和也が耳元に居る。
ねぇ、リカ…?
と、囁く声が聞こえる。
身体が
熱くなるんだよ。
それだけ鮮明に
私の記憶を呼び戻した。
蓋をして閉じ込めて
それでも
溢れ出しそうだった想い
もう少し待ってと
自分に言い訳をしながら
きっかけを探したりして。
心の中に開いた
大きな穴は
誰も、埋めてくれない。
きっと、自分で
塞ぐんだよね?

