白い翼と…甘い香り


「素敵な部屋だね」

「気に入った?」

「うんっ、すごく気に入った。
4人くらい
泊まれそうな広さだね」

「ふっ…
4人とか意味ねぇだろ?」

また私が、的外れな事を
言ってると和也は笑った。

お腹空いたねって言いながら
荷物をあけて着替えを出したり
バスルームを覗いてみたり

じっとしてない私を
和也は暖かな目で見ていた。

年甲斐も無くはしゃいでいると
思われた方がいい。



ソファーに座り
大きく広げた両足に肘をついて

少し煙たそうな顔で
目を細めながらタバコを吸う。

何を考えてるのか
分からないけど

何となく勘が鋭くて
目の奥を覗き込むように
私の気持ちを
見抜いてる事がある。

いきなり
遠くへ行こうと言った私を

いつもと違うと、何か
怪しんでいるかも知れない。

タバコを灰皿に押し付けると
「明日はどこ行こっか?」
と、振り返る。

「どんな観光地が
あるんだろうね?」

「ん~、ガイドブックとか
買ってみる?」

「そういうの、ロビーに
少しはあるんじゃない?」

「ホテルの人にも
聞いてみよっか?」

レストランの予約までに
ロビーへ行ってみる事にした。


手を繋ぐように
差し出した和也の手を

今度は迷いもなく
ギュッと握りしめ
近づいて寄り添って

繋いでる手以外にもどこか
肩とか腕が、必ず
触れてるように並んで歩く。

ただ、そんな事が
嬉しかったりして…


2人でエレベータに乗り込むと
手すりの高さで貼り付けられた
低い位置の鏡に

繋いだ手だけが映っていて

どこかで見た
ドラマの1シーンみたいに

私の目に焼き付いて
離れなかった。