白い翼と…甘い香り


小さく書かれた
「リカ」という自分の名前を

切り取って
持って帰りたいと思うほど

ただ、そんな事にさえ
愛おしさが込み上げてくる。


荷物はフロントに預けて
そのまま外へ出ようと

和也はサイフと携帯だけを
ポケットに押し込んだ。

カードキーを受け取り
荷物は部屋へ
運んでおいて欲しいと告げ
私の手を取って歩き出す。


今日は人前で

平気で
手を繋げるんだね…




フロントからの
「行ってらっしゃいませ」
という言葉が

少し照れくさかった。


ホテルを出てゆっくりと
街路樹の下を歩き出すと

暖かい太陽の日差しが
葉の隙間からキラキラ見えて

「何か眩しいね」
って言いながら空を見上げる。



太陽が眩しいのか

2人で手を繋いで
外にいる事が眩しいのか

キラキラしてるのは何なのか

キレイな景色よりも
大事なことは何なのか

きっと、言葉にしなくても
お互いに分かり合ってる。


きっと同じ事を思いながら
たまに

何も言わないで
目を合わせる瞬間が
大好きだった。



ゆっくりと景色を
楽しむように歩いていると

すぐ向かいの道端に
小さなカフェが見えた。

蔦が絡まった
深い色合いのレンガに

明るいオレンジ色の
庇を大きく広げた
オープンカフェをじっと見て

「なんか
ちょっと腹減らねぇ?」

「うんっ
お昼食べてないもんね」

2人で同じ事を考えていた。

遅い昼食というより
お茶の時間という感じ。