白い翼と…甘い香り


ふと、ハンドルを握る手が
伸びてきて、私の手を掴む。

「片手運転、危ないよ?」

「ん、真っ直ぐの道だし平気」

2人で前を向いたまま手を繋ぎ
遅い車を上手に追い越しながら

この車は、どこへ向かって
いるのだろうと考えてる。


少なくとも

幸せな終わりに
向かってるんじゃない…

そう考えると
今を笑って過ごす事が

とても大事な事だって
思えてくるんだ。





「どっか、寄る所とか無い?」

「ん~、特に思い付かないよ」

「んじゃ、先に
チェックインしちゃおっか。

車置いてから
歩いて出掛けてみる?」

「うんっ、それがいい」


高速道路を降りた車は
段々と街の中へ入り
景色が賑わしくなってくる。

名前は知ってるけど
来たことがない街。


東京よりは自然が多くて
でも寂れた雰囲気のない
生き生きとした街だった。


和也が
予約してくれたホテルは

大きな公園と
隣接するように建ち

目の前の道路は
鮮やかな緑の街路樹が並び

大通りから少し外れただけで
街の喧噪から離れるような
落ち着いた佇まいだった。

地下の駐車場に案内されると
フロントまで
荷物を運んでくれる人が居た。


接客に慣れた感じの
丁寧だけど改まり過ぎない
ボーイさんの態度は

このホテルの居心地の良さを
感じさせてくれる。



フロントでは、和也が
慣れた感じで手続きをして

自分のフルネームを書いた下に
小さく、「リカ」と
それだけを書き加えた。

名前なんて
正式に書かなくても良いのに

きちんと本名を
隠さずに書いた事が
和也の真っ直ぐさを表してる。

どこにも、誰にも
隠すことなんて無い

そう言ってるんだよね?