「い、おくんっ」
私は、伊織に抱きついて離れなかった。
「な、何…。どうしたの、ゆず?」
伊織は心配そうに私を見つめる。
そこに、伊織のお母さんが説明する。
「ゆずちゃんね、幼稚園に伊織がいなくて寂しいんだって。言ってもね、わかってくれないの」
「…ゆずが?」
私は更に強く伊織に抱きついた。
伊織はそのまま、私に話しかける。
「ゆず、泣かないで。ぼくはもうようちえんには行かないけど、ゆずとはあそべるよ?」
「やだぁっ!いおくんがどっかいっちゃうっ」
「ゆず…」
流石にこればかりは、伊織を困らせた。
「じゃあまいにち、ぼくが学校からかえってきたらあそぼう?」
「…まいにち?」
「うん。だから、もうさみしくないでしょ?」
「…うん」
寂しくない、と言うよりも、不安が薄れたと言う方が正しいかもしれない。
その頃の私の生活の大半は伊織と過ごしていたから。

