それにシギが納得したようにうなずくのを確認すると、レイシアは歩きはじめる。


「とりあえず宿を探して荷物を置いてから出かけましょう。」

そう言ってレイシアは宿へと向かった。





路地裏にある手頃な宿に荷物を置くと、2人はコートや重い装備を外し簡単な服に着替えて街へ出た。


街の中はレイシアが言っていたとおり、花と水にあふれていた。

大きな水道もいくつもあり、普通の石畳の道の端にも小さな小川のように水道が走っていた。


街のいたるところに公園があり、そのどれにも素晴らしい噴水などの水のオブジェが造られていた。



そんな美しい光景に目を奪われながらシギがレイシアに着いていくと、レイシアが人混みの騒音の中でいつの間にか魔術を使い、シギに声を届ける。



『まずは適当な服を買いましょう。

旅人に見えるよりは、ある程度小綺麗な姿のほうが何かと便利でしょうからね。』


レイシアは振り向くことなくそう言うと、慣れた様子で人混みを縫って進んでいく。



民家にすら絶えることなく飾られた花々に感動しているシギには、来た道を覚えておくだけで精一杯だった。




「師匠!師匠は王都に来たことは……」

『ありませんよ。』



シギが人混みを掻き分けながらそう聞くが、またレイシアは魔術で答える。


だが、レイシアの足取りは初めて来たような足取りではなかった。

明らかに慣れていて、迷いがない。



路地裏や商店街、さらに水道までもが編み目状に張り巡らされているこの王都では、よっぽど正確な知識がないかぎり、目的地に簡単にたどり着くことはできないだろう。



しかしレイシアは、しばらく歩いて、いとも簡単に少し格式の高そうな服屋を見つけてしまった。


それに不思議に思いながら、シギはレイシアのあとを追って店に入った。










たくさんの店が立ち並ぶ商店街の、少しだけ高級感のある洋服店から、紺色の髪の青年は出てきた。

艶やかなまっすぐの紺の長髪を首の後ろで丁寧に結び、背中に垂らしている。

真っ白のシャツと袖のない黒のベスト。

おなじように黒いズボンでしなやかな足を包んでいる。

足元は動きやすそうな黒のブーツをはいている。


すべてがぴったりと彼に合っていて、細身の引き締まった身体をさらに引き立てていた。



彼はカフスボタンを触ったりしながらしばらく店の外で立っていて、するとそのうちに、もうひとりの、次は対照的な明るい雰囲気の青年が後ろから出てきた。