「水道?」


シギがそう聞くと、レイシアはひとつうなずいて続ける。



「ええ、水道です。

王都にはただの石畳の道と同じくらいたくさんの水道が通っています。

それもただの水道ではなくどれも道と変わらぬ広さを持っていて、ひとつの交通手段として使われているんですよ。

道を馬車が走るように、水道を舟が行き来していて、人々はそれによって広い王都の中を移動している。

商店街のようになっている水道もあって、商品を積んだ舟が数えきれないほど並びます。また客も舟によってそこで買い物をするんです。」



すらすらとそう説明するレイシアに感心しながら、シギはレイシアに素朴な質問を投げ掛ける。



「しかし、王都は海に面しているわけでも山のふもとにあるわけでもありませんよね。

どこからそれだけの水を供給しているんです?」



するとレイシアはそれににっこりと微笑み、

「それは良い質問ですね。」

と言う。


シギがそれに不思議そうな顔をすると、レイシアがまた語る。



「王都が花と水の都と呼ばれる由縁はそこにあります。

花はおそらくトクルーナから運ばれてくるすごい量の花と、華やかさを意味するのでしょうが……


水は、王家の象徴でもあるんです。


実は王都の水はすべて王城の中にある涌き水によってもたらされているんですよ。

その涌き水は聖泉と呼ばれ、絶えることなく莫大な量の水を人々に恵んでくれる。

それによって王都は栄え、今に至るというわけです。」




シギがそれに素直に感心し、

「聞くかぎりだと王都は本当に美しい場所のようですね。

楽しみです。」

と少し声を弾ませるので、レイシアもそれにやんわりと微笑んでうなずく。



「ええ、そうですね。
機会があればぜひとも聖泉を拝みたいものです。」

「聖泉ですか………
ですが聖泉は王城の中にあるうえに言わば王家の秘宝とも言えるもの。そう簡単には見れませんよ。」

「まあ、そうなんですよね。
しかし、どうにかして………」



そうつぶやいて腕を組んでレイシアが考えこんでしまうので、シギはひとつため息をついて黙って待った。


周りには相変わらずたくさんの旅人や商人がひしめき合っていて、王都の広さを物語っている。



知らない世界ばかりだ。



整備された美しい石畳の街道も、見たことのないもので。




師匠は旅に出るときに、もう世界を美しく見ることはできないと言っていた。

世界は汚くて、師匠と私にはそれが見えてしまうから。

そういう暗い世界を生きることになってしまうから。


だから……





でも、私にはまだ、世界は美しいままだ。