翌朝。



レイシアとシギは少ない荷物をまとめ、まだ暗いうちに宿を出た。

トクルーナから王都までは、徒歩では丸一日ほどかかる。

途中で野宿するほどの距離でもないので、王都の城門が閉められる日暮れまでにはたどり着きたかった。




村の外までルシールとルウは2人を見送ってくれた。


ルウはわんわんと泣いたが、ルシールは泣かなかった。



「お世話になりました。」


レイシアのその言葉にルシールはにっこりと微笑む。

「こちらこそいろいろ手伝っていただいて。
ありがとうございます。」

それからルシールはルウの頭をなで、なだめるように言う。

「ほら、ルウ。
ちゃんとあいさつしないと、後で後悔しちゃうわよ。」


それにルウが泣きながらうなずき、

「レイシアありがとう。
シギさんもありがとう。
2人とも気をつけてね。」

と言う。


レイシアはしゃがんでルウの顔をのぞきこみ、

「どういたしまして。
ルウさんもお元気で。」

と言う。


シギもぽんとルウの頭をなでると、ルシールを見つめる。


ルシールの目は多少腫れてはいるが、涙を流す気配はなかった。

それにシギは安心して微笑む。


ルシールもそれに微笑み返す。




「じゃあ、行きますよ。」


レイシアはそう言ってコートのフードを目深にかぶり、踵を返す。
シギも、はい、と返事をして踵を返そうとするが、一度立ち止まりルシールを見る。

ルシールは自分がかけていたエプロンを外しルウの頭にかぶせると、シギに駆け寄る。

シギは駆け寄るルシールの手をとり、2人は一度だけキスをした。


一瞬でルシールは離れ、

「待ってます。」

と言って微笑む。



それにシギはルシールの頭をなで、フードをかぶり踵を返した。




ルシールはレイシアのあとを追うシギの背中を見送る。

そこでかぶされたエプロンから顔を出したルウが、

「なに?なんでエプロン…」

と言うが、それには答えず、ルシールは遠くなっていく背中をいつまでも見送っていた。