ルシールとシギは昨日のように昼食をバスケットにつめると、すぐに出かけた。



「昨日は西のほうに行ったから、今日は東の森に行ってみようかと思うんだけど。」


そのシギの言葉に、ルシールはまた子供のようにはしゃぐ。

「東の森かあ!楽しみだなー!」


すると村の花畑にいた初老の夫婦が顔を上げ、シギたちを呼び止める。

「シギさんにルシール!おはよう。」


それにルシールは、
「おはようございます。」
と言い、シギは軽く頭を下げる。


すると夫婦はにこにこと微笑んで、

「ほんとに仲が良いねぇ。」
「ほんとほんと。」

と言うので、ルシールはそれに顔を赤らめ、シギは優しく微笑む。


「だがあんたらこれからはどうするんだい?」


それにルシールが少し身体を震わせる。


「そりゃあいっしょになるんだろう?」

そう言って笑う夫婦に、ルシールは焦ったように、


「も、もう!やめてよ。
シギさん!行きましょう。」


と言い、シギを引いて歩いて行った。







東の森の前に来ると、森の奥に小高い丘が見えたので、2人はそこに向かって歩くことにした。



ルシールは森を歩いている間、さっきの夫婦の言葉について考えていた。

いまはシギとの時間を楽しみにしておこう、と割り切っていたつもりだったが、ああして言われると気にせざるをえない。


シギは明日去ってしまうのだ。


むしろ自分がこんなに気にすることもおかしいのだ。

シギと自分は恋人ではない。

たまたまシギが立ち寄った宿の主人が自分であり、シギはただの客。

だから明日は、客を普通に送り出すだけなのだ。


だけど心が勝手に……



「ルシール。」


呼ばれてルシールははっとする。

それにシギがルシールの顔をのぞきこみ、

「どうかしましたか?」

と言う。


突然のことでいつもよりさらに高鳴る心臓を気にしないようにしながら、

「なんでもないです。ちょっと、ぼーっとしてしまって。」

と言う。