zinma Ⅲ






『なるほど。
では、援護します。』


そのシギの応答に、答えを返さず魔術を打ち切ると、レイシアはわずかに肩越しにティラのほうへ振り向く。


「ティラさん。
これから戦闘に入りますが、一瞬のことですのでご自身で身を守ってください。

シギにもあなたの援護を頼みましたが、守り切る、とはいかないでしょう。」


「わかった。
あたしのことは大丈夫だから。」


ティラはうなずいて、腰の後ろに装備した双剣を構えた。



その様子に、ブルゴアがにやつく。


「………ふん。あくまで盾突くか。

よかろう。」


そうブルゴアが言ったところで、近くにある建物のひとつのドアが、ゆっくりと開く。



そこに現れた人物に、


「マムおばさん………?」


ティラは思わず目を丸くしてそうつぶやいた。



そこには中年の、いかにも人の良さそうなふくよかな女性が立っていた。

だがなぜか、その顔はひどく無表情で。



「マムおばさん…?まさか……」


その顔に何かを悟ったかのようにわずかにふらつくティラを、レイシアが制す。


「ティラさん。彼女は呪われてる。
今はブルゴアの言いなりです。」


それにティラが唇を噛むのと同時、他の民家からもたくさんの人間が出てきた。



みんな、うつろな顔をしていて。





レイシアは身体の緊張を少し強め、ゆったりと周りを見回す。


「………なるほど。まあ、ある程度『呪い』を使いこなしてはいるようですが………」



自分の中で、『選ばれしヒト』が跳ね回るのがわかる。

周囲に満ちている『呪い』に、獲物を目の前にした獣のように暴れ、興奮している。



確実に膨らむ空腹の感覚に、ペロリと唇をなめた。




「時間稼ぎに、すぎません。」





両手を軽く広げ、両手の平に魔力を集め、精霊と女神を呼ぶ。

『ディーバ』
『セルージオ』
『ナグム』
『リィラ』



次々とレイシアのまわりに現れる精霊と女神を四方に放って、ふらふらとこちらに近づく街の人間の足を止めさせる。


あるものは地面に下半身を吸い込まれ、あるものは突然現れた大量の水にさらわれ、あるものは火に囲まれ、あるものは鎌鼬に襲われた。



開けた視界の先では、ブルゴアが醜く顔を恐怖に歪めていた。



興奮に高鳴る心臓を押さえ込み、大量の魔術で逆立った髪をそのままに、レイシアはブルゴアへと足を進める。