『なるほど。
では、援護します。』
そのシギの応答に、答えを返さず魔術を打ち切ると、レイシアはわずかに肩越しにティラのほうへ振り向く。
「ティラさん。
これから戦闘に入りますが、一瞬のことですのでご自身で身を守ってください。
シギにもあなたの援護を頼みましたが、守り切る、とはいかないでしょう。」
「わかった。
あたしのことは大丈夫だから。」
ティラはうなずいて、腰の後ろに装備した双剣を構えた。
その様子に、ブルゴアがにやつく。
「………ふん。あくまで盾突くか。
よかろう。」
そうブルゴアが言ったところで、近くにある建物のひとつのドアが、ゆっくりと開く。
そこに現れた人物に、
「マムおばさん………?」
ティラは思わず目を丸くしてそうつぶやいた。
そこには中年の、いかにも人の良さそうなふくよかな女性が立っていた。
だがなぜか、その顔はひどく無表情で。
「マムおばさん…?まさか……」
その顔に何かを悟ったかのようにわずかにふらつくティラを、レイシアが制す。
「ティラさん。彼女は呪われてる。
今はブルゴアの言いなりです。」
それにティラが唇を噛むのと同時、他の民家からもたくさんの人間が出てきた。
みんな、うつろな顔をしていて。
レイシアは身体の緊張を少し強め、ゆったりと周りを見回す。
「………なるほど。まあ、ある程度『呪い』を使いこなしてはいるようですが………」
自分の中で、『選ばれしヒト』が跳ね回るのがわかる。
周囲に満ちている『呪い』に、獲物を目の前にした獣のように暴れ、興奮している。
確実に膨らむ空腹の感覚に、ペロリと唇をなめた。
「時間稼ぎに、すぎません。」
両手を軽く広げ、両手の平に魔力を集め、精霊と女神を呼ぶ。
『ディーバ』
『セルージオ』
『ナグム』
『リィラ』
次々とレイシアのまわりに現れる精霊と女神を四方に放って、ふらふらとこちらに近づく街の人間の足を止めさせる。
あるものは地面に下半身を吸い込まれ、あるものは突然現れた大量の水にさらわれ、あるものは火に囲まれ、あるものは鎌鼬に襲われた。
開けた視界の先では、ブルゴアが醜く顔を恐怖に歪めていた。
興奮に高鳴る心臓を押さえ込み、大量の魔術で逆立った髪をそのままに、レイシアはブルゴアへと足を進める。



