その悔しさと怒りに顔をしかめながらも、シギは心の隅にある疑問も抱いていた。
視線の下。
レイシアの様子が、おかしかった。
いつも冷静に、にこにこと微笑んでいるレイシアがひどく無表情で、いつもの高めの声に比べ今は声もほんの少し低い。
それはまるで、レイシアが怒っているようにも見えた。
しかしレイシアは、彼自身もそう思っているとおり、感情を失っているはずだった。
だが彼はなぜいま……
「わかっていないのだろうが、私は『呪い』の中でも強力な『呪い』と契約を交わした。
この町の愚民どもが私によこした数人の旅人の血を対価としてな。」
「そのような話、興味ありませんね。
あなたは上位種でも下等種でもない。
評価する価値もありません。」
レイシアはそう言いながら、腰に当てたかのように見せた片手で、ティラをわずかに後ろへと押した。
離れろ。
そう言うかのようなレイシアの動きに、ティラは混乱する頭を一度無視して、ブルゴアにわからない程度に少しずつ後ずさった。
「貴様ぁ……っ!
……ふん。よかろう。
私の力、貴様に存分に味あわせてやる。」
「臭い台詞ですね。
さっさとやっていただけませんか。」
レイシアはさらにそこで、小さく腰のうしろで指をパチンと鳴らす。
途端、レイシアのわずかな声を、シギの鼓膜だけを狙って響かせる。
『ブルゴアは対した相手ではありません。
すぐに終わらせるのでティラさんを保護する必要はないでしょう。
最低限の魔術で極力ティラさんと周りの建物に被害が及ばないよう、防いでください。』
それにシギも同じくすばやく魔法陣を描いてレイシアへ声を届ける。
『わかりました。
しかしなぜそれほど急ぐんです?
師匠はさっきから様子がおかしいですよ。』
しかし、それに答えようとレイシアが口を開いたところで、
「いいだろう。
それほどまでに死を望むのならば、そうしてやる。」
そう言って声を少し高ぶらせたブルゴアは、右手を空に軽く掲げる。
その手がわずかに黒く染まり、ブルゴアはその右手を振る。
するとその手を中心にして、黒い霧が現れ渦巻く。
その様子をながめ、レイシアはほんの少し姿勢を低くし、シギに答えた。
『ええ、わかっています。
私の中の『選ばれしヒト』が中で暴れているんです。
目の前でマイルさんに憑いていた『呪い』を逃がしたことに対する怒りと、興奮に。
マイルさんから離れた『呪い』は近くにいる。
早く、探さなくては。』
その間にもブルゴアから放たれる黒い霧は規模を増し、町中を包み込む。



