「なるほど。
あなたがすでに人間ではなくなったかのような言い草ですね。」
「そりゃあそうだ。
私は人間を超越した存在になったのだ。
『呪い』のことを知っているということは、貴様もやはりそういった類なのだろう?
ならばわかるはずだ。」
「残念ながら私にはわかりかねますね。
あなたはどこをどう見ても、上位種になったようには見えませんし。」
鼻を鳴らして高々と言い放っていたブルゴアにレイシアがそう切り返し、わざとらしく顎に手を置いてブルゴアの醜い身体を舐めるように見つめると、ブルゴアはいよいよ顔を赤らめた。
「………貴様、無礼にもほどがあるのではないか?」
「無礼もなにも、はなからあなたに礼儀をはらおうなどとは思っていません。」
シギは屋根の上から、レイシアとブルゴアのやり取りを見ていた。
小さく魔法陣を準備し、いつでもティラを助けられるようにはしているのだが……
「…………。」
シギは口の中に血の味がにじむのを感じていた。
さっきの出来事。
マイルが、消えたのを見て。
マイルは死んだ。
だが、槍に刺されたからではない。
あの傷は、確かに致命傷にはなるだろうが、即死ではない。
さらにマイルは、黒い霧になったようにして消えたのだ。
あれは間違いない。
『呪い』に、喰われたのだ。
マイルの身体はもう限界だった。
『呪い』に侵され、もう命は助からないところまできていた。
だが、レイシアに『呪い』を捧げるつもりだったのだ。
しかしそれが、叶わなかった。
さっきのティラの様子。
あれだけ執着していた兄が目の前で死んだのに、まるで動じず、むしろ混乱していた。
まるでマイルを、兄だと認識していないかのように。
マイルはおそらく、最後の最後にティラから自分に関する記憶を奪ったのだ。
ティラを守るため、槍にその身をさらしたことによって、マイルはレイシアに差し出す命すら奪われようとしていた。
自分の無惨な死に様を、妹に見せるわけにはいかない、と考えたのだろう。
愛する妹に、一生残る傷を負わせるくらいなら、いっそ自分のことを、忘れさせたほうがいい。
たとえそれが。
『呪い』に喰われ、永遠に消えることのない苦痛をその身に受けることだと、わかっていても。
マイルは最期の代償を『呪い』に差し出し、ティラの記憶を奪って、代償、つまり自分のすべてを払って、消えた。
その光景に、シギは思わず唇を噛んだのだ。
あまりにも酷い運命に。
あまりにも無惨な終わりに。
あまりにも気高い、命に。



