「……………ほぉ。
ずいぶん見ないうちに偉くなったもんよのう。
化け物が。」
挑発するかのようにそう言うブルゴアに、レイシアは無表情のまま答える。
「あなたこそ、ずいぶんな化け物になったと聞いていますが?」
「お前、『呪い』のことを知っているのか。
感心、感心。
化け物にしてはよく勉強が……」
「あなたと腐った問答をするつもりはありません。」
レイシアの平坦な声にブルゴアが顔をしかめるが、レイシアは気にせず進める。
「この場で『呪い』の話をするのは危険です。
他の場所へ移りませんか?」
振り向いてブルゴアのほうを見つめ、そして周りにいる衛兵たちへと目配せしながらレイシアは言った。
あまりただの人間にコチラ側の世界を見せるわけにはいかなかった。
人間がコチラに興味を持つのはひどく危険なことなのだ。
コチラに興味を持って、下手に人間が干渉しようとすればそこまで。
みなが闇に飲み込まれる。
人が毎日、笑ったり泣いたりして味わっている目の前の出来事の一喜一憂などはただの幻想で、世界は本当はありえないほどの絶望で埋め尽くされているんだということに、気づいてしまう。
そうなってしまえば、だれもが狂うだろう。
そこでレイシアはすぐそばの民家の屋根の上へと視線だけを向ける。
そこには、姿こそ見えないものの、シギが隠れているはずだった。
この旅を共に歩むと認めたシギにさえ、レイシアは世界の根本を見せていなかった。
あまりにも彼の心はきれいだから。
この絶望だらけの世界でも、レイシアはシギには本当の闇を見せないよう、いろいろと手を施しているのだ。
『呪い』をその身に宿したシギでさえ、見ることの敵わない闇。
それから人間を遠ざけるためにも……
「どこに場所を変えますか?」
レイシアはそう、ブルゴアに言った。
しかし、
「ふん。かまわんだろう。
下等な人間ごとき、私が気にかける価値もないわ。」
ブルゴアは鼻で笑ってそう言い放った。
それにずっと無表情だったレイシアも、冷たい微笑みを浮かべる。



