妙な感覚だった。
頭がやたらすっきりしている。
ただ、さっきまで槍で身体を貫かれていた青年が、なぜか真っ黒になったかと思うと霧のように消えてしまって。
その向こうにいるレイシアのほうを見て、ティラはただただ首を傾げた。
「レイ兄?これどういう状況なの?
もしかしてこれがレイ兄の言ってた『呪い』に関係が…………」
そんなふうに慌てるティラの様子を、レイシアは深い色合いの瞳で静かに見つめた。
さらにティラは、槍を構えた衛兵とその向こうに立つブルゴアの姿を見て混乱しているようだった。
必死で頭を整理しようとティラが顔をしかめていると、
「ちっ。やつは自滅したか……。
まあいい。ここには脱走犯もいるようだからな。」
悔しげに顔をしかめていたブルゴアが、レイシアのほうを見つめてにやつく。
レイシアはというと横目でブルゴアを一瞥すると、ティラの方へとゆったりと、しかしどこか鬼気を感じさせる静かさで歩いてくる。
「ああ、お久しぶりですね、ブルゴア公爵様。
私にも用があったんですか?」
ブルゴアのほうを一度も見ることなく歩みを進めるレイシアに、わずかにブルゴアの眉が動く。
その間にレイシアはティラのもとへたどり着いたが、いまだその場でよくわからない展開に呆然としていた衛兵たちも、そのレイシアのなみなみならなぬ雰囲気に気圧されたかのように動かない。
ティラもそのレイシアを見つめるだけだが、レイシアはいつものようにティラに微笑み返してはくれなかった。
「レイに……………」
ティラが声をかけようとしたところで。
「う、動くなっ!!!!」
一人の衛兵がやっとレイシアへと槍を向ける。
レイシアは、まだマイルの血のついたその槍の先を一度静かに見つめ、ゆっくりとした動きでその鏃を掴む。
「な………な、何を…………」
ただならぬ恐怖に歯をガチガチと震わせて言う衛兵をよそに、レイシアは鏃を思いっきり握る。
鈍い心地の悪い音をたてて、鏃がレイシアの指の形に沿って潰れた。
「うわ…あ………あ………」
槍を握りしめたまままだ震える衛兵を静かに見つめ、ティラを背中にかばうようにしてレイシアは振り向く。
「あなたたちのような三下を相手にする場面ではありません。
死にたくなければ下がりなさい。」
静かだが、しかし脳に直接たたき付けるような圧のこもった声で言うレイシアに、衛兵たちはだれも何も言うことなく、数歩あとずさった。



