zinma Ⅲ











懐かしい、匂いがした気がした。











ふわりと、風が顔に当たる。


その風と、双剣を握るティラの手を強く包み込む何かの感覚に、目を開いた。



「………にいさ………?…………」



目の前にある、慣れ親しんだその顔に、思わずそうつぶやく。


首筋に向けていた双剣を握る手を止め、ティラに向かい合うようにして目の前に立つ兄の顔を、ティラは呆然と見つめた。



焦ったような、怒っているような、悲しんでいるようにしかめられた顔。

自分とそっくりの赤い色の髪の隙間から、いつもの優しい瞳が覗いていた。




マイルはティラの瞳を受け止めると、すぐさまティラの額に手を握っていないほうの手を当てる。


今だ呆然としているティラをよそに、マイルは一度目をきつく閉じる。



その背後で、突然のマイルの登場に思わず足を止めていた衛兵たちにブルゴアが叫ぶ。


「何をしている!!!
そいつを捕らえろ!!半殺しにでもするんだ!!!」


それにやっと槍を構えなおした衛兵たちが、また2人のもとへ走ってくる。



その様子を兄の肩越しに見て、ティラもやっと気を取り戻す。


「に、兄さん!!
逃げないと……いったい何を…」


「ティラ。」





久しぶりに聞いた、あまりにも優しすぎるその声に思わず顔を上げる。


まだティラの額に手を当てていたままのマイルは、ひどく悲しげに眉をよせて微笑んでいた。



「兄さん………………?」




あんな顔は初めて見た。


いつも優しげな顔。


今もひどく、優しい顔をしている。



だけど、この微笑みは……






マイルの微笑みが、満面の、幸せそうな微笑みに変わる。















「ごめんね、ティラ。」
















マイルの手が真っ黒に光る。



そのマイルの背後、いつの間に現れたのか、レイシアが立って静かにこちらを見つめていた。

それに気づいたのと同時。




どんっ!!!!




鈍い音とともに、マイルの細い身体を2本の槍が貫く。

血が吹き出し、目の前にいたティラの服を少し汚す。


ティラの額から手を離し、口から尋常じゃない血を口から吐き出して、後ろへよろけながら後ずさる。



口を血で汚したマイルが、ゆっくりとレイシアのほうへ振り向く。



「…………ごめん。
たのんだ…よ…………。」


そう言って微笑むマイルにレイシアがぺこりと一礼すると、マイルが力を抜いたように膝を崩し、ゆっくりと倒れていく。



しかし。



マイルが地面へと倒れ込む直前。




体中を真っ黒に変えた彼は。





砕け散った。








そのよくわからない光景を。


顔の知らない青年の消えた様子を。


ティラは怪訝な顔で、見つめていた。