zinma Ⅲ






無駄に豪華な馬車。



その回りを守るように集まる数人の衛兵。


そのうちの一人が、ティラのほうを見て槍を向けていた。




「……りょ……領主……さま……」


思わず口から出た自分の言葉に、やっと正気を取り戻す。


久しぶりに見た、あの馬車。



よっぽど街に現れることのない奴が、今は目の前にいる。



「ブルゴア様!!
あのマイル・ルークの親族の姿を確認しました!!」


ティラに槍を向けたままの衛兵が、ティラをにらんでそう叫ぶ。


すると、しばらくして馬車の扉がゆっくりと開く。



馬車の扉の隙間から、太い足が現れるのが見えた。


「……ほぉ。妹は行方不明のはずだっただろうが。」


しゃがれた低い声とともに、奴が姿を現す。



ぶくぶくと太った身体を、馬車に負けず劣らずの豪華な装飾のついた服でつつみ、高貴さを示す金髪は嫌な輝きを放っていた。


大嫌いな、顔だ。



「…………くそ。」


ティラはだれにも聞こえないように、そう呻いた。


ブルゴアは兄を探している。



おそらくこいつはあたしを………




「そう怯えるな。
わたしはお前の兄を探している。
ちょっと協力してくれないかね?」


ブルゴアがにやにやと口の端を上げながら、そう言う。


やっぱりだ。

あたしを捕まえて、兄を引きずり出す餌にしようとしている。


今の兄が自分を助けにくるとは思えないが、しかし迷惑をかけることに変わりはない。


さらには自分はそのうち人買いに売られるだろう。





「………そんなの、嫌よ。」


ティラの言葉に、ブルゴアが片眉をあげる。

まわりの衛兵もうろたえるような動きをするが、すぐさまティラに槍の先を向ける。


その様子を一瞥し、ティラは手を強くにぎりしめる。



「あんたなんかに、良いようにはされたくない。」



腰のうしろの双剣を、一本抜く。


しかしその矛先は……



「…………貴様。」

ブルゴアが思わず顔をしかめるのを見て、笑う。



矛先は、自分の首筋へと当てていた。



こいつに捕まるくらいなら、死んでやる。



「捕らえろ!!!!」



ブルゴアの一喝に、衛兵が槍をティラに向けたままこちらへ駆け出す。

それを見つめながら、ティラは強く目を閉じた。



こんな最期だとは、思わなかったけど。





「ばいばい、兄さん。」





これで、すべてが…………














「ティラ!!!!!!!!」