無駄に豪華な馬車。
その回りを守るように集まる数人の衛兵。
そのうちの一人が、ティラのほうを見て槍を向けていた。
「……りょ……領主……さま……」
思わず口から出た自分の言葉に、やっと正気を取り戻す。
久しぶりに見た、あの馬車。
よっぽど街に現れることのない奴が、今は目の前にいる。
「ブルゴア様!!
あのマイル・ルークの親族の姿を確認しました!!」
ティラに槍を向けたままの衛兵が、ティラをにらんでそう叫ぶ。
すると、しばらくして馬車の扉がゆっくりと開く。
馬車の扉の隙間から、太い足が現れるのが見えた。
「……ほぉ。妹は行方不明のはずだっただろうが。」
しゃがれた低い声とともに、奴が姿を現す。
ぶくぶくと太った身体を、馬車に負けず劣らずの豪華な装飾のついた服でつつみ、高貴さを示す金髪は嫌な輝きを放っていた。
大嫌いな、顔だ。
「…………くそ。」
ティラはだれにも聞こえないように、そう呻いた。
ブルゴアは兄を探している。
おそらくこいつはあたしを………
「そう怯えるな。
わたしはお前の兄を探している。
ちょっと協力してくれないかね?」
ブルゴアがにやにやと口の端を上げながら、そう言う。
やっぱりだ。
あたしを捕まえて、兄を引きずり出す餌にしようとしている。
今の兄が自分を助けにくるとは思えないが、しかし迷惑をかけることに変わりはない。
さらには自分はそのうち人買いに売られるだろう。
「………そんなの、嫌よ。」
ティラの言葉に、ブルゴアが片眉をあげる。
まわりの衛兵もうろたえるような動きをするが、すぐさまティラに槍の先を向ける。
その様子を一瞥し、ティラは手を強くにぎりしめる。
「あんたなんかに、良いようにはされたくない。」
腰のうしろの双剣を、一本抜く。
しかしその矛先は……
「…………貴様。」
ブルゴアが思わず顔をしかめるのを見て、笑う。
矛先は、自分の首筋へと当てていた。
こいつに捕まるくらいなら、死んでやる。
「捕らえろ!!!!」
ブルゴアの一喝に、衛兵が槍をティラに向けたままこちらへ駆け出す。
それを見つめながら、ティラは強く目を閉じた。
こんな最期だとは、思わなかったけど。
「ばいばい、兄さん。」
これで、すべてが…………
「ティラ!!!!!!!!」



