「それで?」
「はい?」
マイルの言葉に、レイシアは思わずマイルのほうへ顔を向けた。
「わかってるだろう?
いつ『呪い』を食べてくれるのかな、『神魔』くん?」
おどけるように、小馬鹿にするように肩をすくめてマイルが言う。
それにレイシアはしばらく黙り込み、
「………もういいんですか?」
と、静かに聞く。
ブルゴアはいま3人のすぐ近くにいる。
シギも、マイルの目的がブルゴアへの復讐であることは、わかっていた。
『呪い』と契約してしまうほどの怨念を、そう簡単に捨てることができるのだろうか?
「………まあね。
本当はさ、ブルゴアが出て来たら、あいつの全部の記憶を喰ってやって、内側から壊してやるつもりだったんだ。
でも…………」
静かな赤い垂れがちの瞳でブルゴアを見つめながら、マイルは言葉を止める。
そして、ゆっくりと自分の服を少しだけまくる。
「……っ?!」
その服から見えた細い腹部に、シギは思わず息を呑んだ。
その腹部は、炭よりも真っ黒になっていて、左の脇腹は本物の炭のように、ほんの少し欠けていた。
「うぁ…………。」
あまりにも不気味な光景に、シギは思わず小さくうめき声をあげる。
それにマイルは少し微笑み、また服を戻す。
「自分で思っていたよりも『呪い』の進行が早くてね。
命だけじゃ足らないみたいで、僕の身体も全部欲しいみたいなんだ。」
レイシアは黙り込んだまま、静かにマイルの声に耳をかたむけている。
シギには、その表情が見えなかった。
「さすがにここまで来ると厳しくてね。
ちょっと疲れたから、もういいよ。」
そこまで言って、マイルは本当に身体がだるいように長く息をつく。
その顔には、疲労感しか浮かんでいないようにも見えた。
「ブルゴアとレイシアでは勝負にもならないだろうし、なんとかしてくれるだろうからね。
わざわざ僕が手を出す必要はないさ。」
小さく笑ってそう言うと、マイルはその場に緊張を解いたような姿勢で座り、また長く息をついて目を閉じる。
レイシアはそれをしばらく見つめ、そしてゆっくりと手をかかげてその指先をマイルの額に近づける。
「………そうですか。
では、もういいんですね?」
レイシアのその言葉にマイルは一度目を開き、静かにレイシアの瞳を見つめる。
そして、穏やかな顔で微笑んだかと思うと、何も言うことなくまた目を閉じた。
レイシアはまたしばらく黙ってから、指先を軽くマイルの額へ当てる。
「ちゃんと、約束は…………」
『ブルゴア様!!!!』
突然響いた声に、マイルは思わず目を見開いた。



