「それは君だって同じだろ?
今回の『神の犬』がなかなかだってことは、なんとなく風の噂で聞いてはいたけど。
まさかレイシア・リールがそうだったなんてね。」
人の良い笑顔から、わずかに陰りのある笑みになってマイルがつぶやく。
レイシアは中身のない微笑みを浮かべたまま暗い街を見下ろし、独り言のようにつぶやく。
「『神の犬』、ね…………。
『呪い』のみなさんも、なかなか言ってくれますよ。」
マイルはレイシアを少し敬遠するように目を細めて、言う。
「………ああ。『白呪の民』の側では、そうは呼ばないんだったね。
『選ばれしヒト』、だっけ?」
鼻で笑ってそう言うマイルに、レイシアは驚いたように目を見開いてマイルを見つめる。
「『白呪の民』の名も知っているとは……
あなたは本当に『呪い』と馴染んでいるようですね。」
「まあね。
なぜかはわからないけど、ずいぶん気に入ってもらえたみたいだなあ。
いろいろ知ってるよ。
君の名前も、いくつもあるみたいだね。」
その言葉に、レイシアはまた微笑んで目の前の空間を見つめた。
そのレイシアの様子を横目で見ながら、マイルは続ける。
「『神の犬』って名前が一番耳に入るけど、『選ばれしヒト』もよく聞くかな。
そして………」
レイシアの横顔を見つめ、マイルはわずかに口の端を上げる。
「『神魔』。」
マイルの言葉に、自分の中にある大きな存在が、大きく脈打つのを感じる。
今まで止まっていたんじゃないかと思うくらい、心臓が激しく動きだし、熱い血が体中を駆け巡った。
「…………『神魔』、ね。
久しぶりに聞いた名前です。」
あくまでも静かな声で言うレイシアに、マイルが声を上げて笑う。
「あはは!無理しなくてもいいじゃないか。
君の中のヤツが、今暴れ回っているんじゃないのか?
まったく、君もとんだ化け物を入れられたもんだね。」
まだくすくすと笑い続けながら言うマイルに、だがレイシアは今だ静かなままだった。
そのレイシアをまた見下ろすように見つめ、マイルは少し声を真剣なものに落とし、言う。
「だけど、君は知らないんじゃないかな?
君は今までにないほど、世界中の『呪い』に注目されてるんだよ。」
「私がですか?
それはまたなぜ?」



