『『呪い』は人にはない強大な力を持った、簡単に言えばお伽話に出てくる悪魔みたいなものです。』





床に転がった、小さな指輪が目に入る。

兄さんが、恋人にあげるはずだった、結婚指輪。


「ティラ………?」


兄さんが、ずっと大切に持っていたはずの指輪。





『あなたのお兄さんのように、何か大きな悪の心、恨みや、悲しみなどを抱えた人間の前に現れます。』




後ずさっていくティラを追って、マイルが一歩踏み出す。




『彼らは力を手に入れるために、『呪い』と契約をします。』







指輪を、踏む。








『あなたがお兄さんが消えた日のことを覚えていないのも、お兄さんがあなたの記憶を抜き取ったからです。』






ティラの背中が、壁に当たる。


「ティラ?どうしたんだ?
兄さんに言ってみなよ。」


兄さんが近寄ってくる。

早鐘のように内側から胸を叩きつける鼓動。



どくどくと、脈が耳元で鳴る。





思考が、ぐるぐるぐるぐる回りはじめる。






そんなはずない。

いや、そうだ。

いや、ありえない。

だって、あんな優しい兄さんなのに。

だが恋人を失った。

だが目の前に兄さんが……

だが様子がおかしい。




「………に………にいさ………」





「ティラ。
あいつから何を聞いたんだい?」








呪い。


呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い呪い。






「………………しょうがないなあ……。

こうなったら…………」
















『マイルさんは、あなたに力を使ったんですよ。』
















兄さん。











「こうなったら………

またお前のキオク。



食べさせてもらわなきゃね。」








ティラに向かって兄が伸ばした手が、真っ黒に輝く。











「兄さん!!!!!!!!!!」