消えていくティラの背中を、ダグラスは呆然と見送った。


シギもしばらくは固まっていたが、舌打ちをしてティラが消えていった森へと駆ける。



しかし、



「待ちなさい。」




静かな声が森に響き、木の上からレイシアがふわりと降りてくる。


「師匠!はじめからそこにいたんですか?」


慌てたようにそう言うシギに軽くうなずき、レイシアは静かな瞳でティラが消えた森を見つめた。



「……まずいことになりましたね。」


困ったように微笑んでそう言うレイシアに、シギが今にも走り出しそうになりながら言う。


「師匠!だから私を行かせてください!今ならまだ追いつけます!」


しかしレイシアはそのシギを横目で見つめ、微笑みを消して答えた。



「だめです。
今彼女を捕まえたとしても、また同じことが起きてしまう。

いちいち彼女にかまっている暇はありません。」


そのレイシアの言葉に、シギではなくダグラスが眉をぴくりと動かして反応する。



「………おい。
その言い方はないだろう。」


殺気を出すまでではないが、ダグラスの声には明らかに無理矢理抑えられた怒りがにじみ出ていた。


シギが思わず、そのいつにないダグラスの様子に驚いているが、レイシアは動じることなく口を開く。



「問題はそこではありません。
これはただの子供の家出ではないんですよ。
世界が生き残るか死ぬかが彼女の行動で左右されてしまうんです。」


まだ不満の残るような顔のダグラスから視線を外し、レイシアはシギに目を移す。



「彼女がお兄さんは街を出たと言っていましたが、お兄さんに会いに行くということは心当たりがあるということ。
彼女を追跡すれば、簡単にお兄さんは見つかるでしょう。」


だがまだ落ち着かない様子でシギが言う。


「しかし、ティラを見失っては意味がないです…!
早く追いかけないと………」


そう言いかけたシギを手で制して、レイシアは右手を軽くかかげる。

さらにパチンと指を鳴らした。





すると、地面に生えた草原の一部が急激に成長し、細い線のように長い草が並んだかと思うと、その線はティラが消えた森へと続いていた。




「いま女神に彼女の追跡をさせています。
私が合図を出せば、女神が残してくれた痕跡が見えるようになっている。

だから安心してください。」



その言葉にやっと落ち着いたらしいシギを確認して、レイシアはシギとダグラスを交互に見つめて言う。



「しかし危険な状況で時間がないのは事実。

急いで身仕度をしてください。出発しますよ。」





そう言って荷物のある場所へ戻っていくレイシアとシギの背中を見つめ、ダグラスはしばらく立ち尽くした。