「すみません。」


「ん?なんだ。」




要塞のある部屋、数人の兵士が守る物置。

この要塞に収容されている囚人たちの荷物が、それぞれ麻袋に入れられた状態で棚に並んでいる。




「あの、これは内密にお願いしたいのですが……」


そう言って一人の兵士が隊長とおぼしき男に耳打ちをする。


「どうやらあの第一級監獄の囚人、外へ逃げてしまったらしくて…」


「なんだと……?!それで…?」


「はい。マーガット中将が、奴は荷物を取りにくるはずだから自分が直接荷物を預かると。」


「うむ。なるほどな。」


「私はその遣いでして、荷物を持ち出す許可をいただきたいんです。」


「ああ、よろしい。持って行け。慎重にな。」


「はい。ありがとうございます。」



そう言って若い兵士は、『第一級監獄』と書かれた棚の上にある麻袋を持ち上げる。

その中身を確認すると、もう一度隊長に一列をして部屋を出て行った。



しかし。




「おい!!貴様、何者だ!!」




部屋を出て階段を降りようとしていた兵士を、だれかが呼び止める。

兵士がそれに振り向くと。



「……やはり……。貴様ぁ……っ!」


そこに立っていたのは、恐ろしい形相で剣を引き抜くマーガットだった。


「おやおや、遅かったですね。」


それに対し、二等兵の制服を来ている兵士が笑う。


「貴様……っ。一体どうやってあの牢獄から抜け出した!」



振り向いたその兵士はレイシアだった。


乱れた髪を書き上げ、微笑む。


「タネを簡単に明かすのはつまらないでしょう?
それに今回もまた私に逃げられるとは、学習しないんですねぇ。」


レイシアは麻袋を床に置くと、首元のボタンを外してゆるめながらにこにこと微笑んでそう言う。



「黙れ!化け物が…!どの口を……」


「はいはいわかりましたから。」


そう言ってレイシアは肩まで伸びたプラチナ色の髪を手早く首の後ろで結ぶ。

そしてまた麻袋を拾おうとするので、マーガットが剣を構え直す。


「動くな!!化け物が、ここから出られると思うのか!!」


レイシアは構わず麻袋を担ぐと、にっこりと微笑む。


「あなたが私を化け物だと言うのなら、私も化け物になってあげましょう。」


それと共に、レイシアはいつの間にか掲げた右手の指をパチンと鳴らす。


「ぐあぁっ!!」


途端にレイシアとマーガットの間に炎が立ち上る。


「それでは、がんばってください。」



そう言ってレイシアはゆっくりと階段を降りて行った。