そこで。



「マーガット中将!!」


後ろから呼ばれるので、振り向く。

すると牢獄の中の捜索をしていたらしい兵士が走ってきていて、なぜか焦ったような表情をしている。

だが、気になったのはそこではなかった。



「中将!牢獄の中にこれが………」



その兵士の手には太い4本の鎖が握られていた。



あの化け物を繋いでいたはずの鎖。




「………どこにあった?」


その鎖を受け取りながら、そう聞く。


「はっ。それが、奴が捕らえられていた場所に落ちていたのですが……」


鎖の枷の部分は、異常な形に溶けてしまっていた。かなり高温の炎で燃やされたかのように。

しかし天井と床に刺さっていた側にはひとつの傷もない。


さっき奴が逃げたのを確認したときにはこの鎖は落ちていなかったはずなのだ。



「………よし。牢獄の中の捜索を続けろ。」

「了解!」



また牢獄へ走り戻っていく兵士を見送り、マーガットは鎖を握りしめた。


牢獄の中を調べるのはおそらく無意味だ。

奴は自分が牢獄を出たあと、逃げたのだ。それまではあの牢獄の中にいた。




気配は、なかったのに。






「…………化け物がぁっ…!!」



マーガットは鎖を床に叩きつけると、階段の方へ走っていったのだった。















マーガットが階段を降りて行くのを見つめる一人の兵士がいた。


兵士は口の端を上げて笑うと、なぜか軽く踵で床を叩く。

するとそこの床に小さなヒビが入り、少しずつ牢獄の奥の方へヒビが進んでいく。


それを見届け、兵士は制服の帽子を牢獄の中へ投げ込む。



ふわりと帽子が落ちるのと同時に、兵士は開けっ放しになった牢獄の扉を抜けて外へ出る。

そしてどこからか鍵を取り出し、牢獄の扉を静かに閉めて鍵をかける。



鍵を指でくるくると回しながら、兵士はゆったりと壁に向かう。


プラチナ色の髪をなびかせながら、兵士は壁にずぶずぶと入っていった。