「どうだ?」



「くっ……なかなか難しい…。」





ダグラスとシギは宿へ戻ってきていた。


ダグラスはベッドに腰掛け、窓際に立つシギを見つめていた。



シギは今、顔を険しくしかめ、瞳を閉じて立っている。


目の前には魔法陣が描かれていて、それに両手を軽く添えている状態だ。






いま2人はレイシアの行方を探していた。


ルーラの神の話、最近の風の奇怪をレイシアに話すためなのだが、町中を探してもレイシアは見つからなかった。



そこで2人は宿へ戻り、シギの魔術でレイシアを探すことにしたのだが………





「…………ちっ。
やはり師匠のようにはいきませんね。」



シギは舌打ちをすると両手を軽く振るって魔法陣を消す。


シギがいま使おうとしているのは、空気の振動を操って、指定した人物だけに声を届ける魔術だ。

これは距離の離れた人間にも声を届けられる魔術で、レイシアもシギの両親もよく使っていたもの。



しかしいまシギは、大勢の人間がいるこのベルーシカからレイシアだけを探し出し、そのレイシアへ声を届けようとしていた。




「やっぱり難しいか…。」


ダグラスがそう聞くと、シギは疲れたようにため息を吐くと、ダグラスの向かいのベッドへ倒れこむ。



「とても……。

私はこの街の規模でも不可能なのに、それどころか師匠は王都にいながら私にこの魔術を使った。

まったく。頭が上がらない。」



そう言って落ち込んだようにまたため息をはくシギに、ダグラスは小さく笑う。


それに心外だと言わんばかりの視線をシギがダグラスに向けるので、ダグラスはまた笑い、言う。



「いや、馬鹿にしているんじゃない。

君はやっぱり年相応の一人の青年なんだと思ってね。

親近感がわくよ。」



シギは少し笑って、

「はは、いままでなんだと思っていたんです?」

と寝転がったまま、金色の目を上目遣いにダグラスへ向ける。


ダグラスはまた笑って答える。



「どうしても君がカリアに似すぎているから、少し妙な感覚だったんだ。

完璧な人間、というイメージが抜けなくてね。

それもいっしょにいるのがレイシアならなおさらだ。」