ダグラスはしばらくその店主の背中を見届け、シギへ視線を戻す。


シギは考えこむようにうつむいて瞳を閉じていた。




しばらくそのままでいると、シギは食べ終わった魚の串を木箱の上に置く。


瞳を開けて、目を細める。


「今の話は少し妙だ。

これはもしかすると……」



そこでシギは片手を空中にかざし、しばらく黙る。




「………ここの風にはやはり、わずかに他よりは強い魔力がこめられているようです。」


それにダグラスがシギに怪訝な顔を向ける。


「それがさっきの話に関係があるのか?」



シギはダグラスの方へ振り向く。

紺色の後れ毛がさらりと肩にこぼれた。




「もしもあのルーラの神の伝説が実際に起きた出来事だとしたら、この地方の風には本当に神の力が宿っているんでしょう。

普通、自然には魔力が宿っているものですが、ここの風の魔力は他よりも強力でより純度が高い気がします。

ここの風がある日何かに反応して、止まった。

さらにそのあとは突風となって押し寄せてきた。

魔力のこめられた風が反応するということは、もちろん……」




「おなじく魔力に影響された、か………。」



シギの言葉を継いで、右手であごをなでながら考えこむダグラスにシギもうなずく。



「はい。

もしくは、『呪い』に反応した可能性もあります。」



それにさらにダグラスは顔を険しくさせて、うめく。



「くそ。なるほどな。

『呪い』だとしたら、風が逃げるように戻ってきたのも説明がつく。

それも神の力が宿っていた風が逃げ出すほどなら……」



「かなり力のある『呪い』の可能性があります。」



次はシギが言葉を継ぎ、ダグラスは顔を上げてシギと顔を見合わせる。



「……レイシアを探すか。」


「はい。」




2人は立ち上がり、屋台で商売をする主人に声をかける。


「魚、おいしかったです。」

主人はぱっと振り向き、人の良い笑顔を向ける。


「ああ!またよろしくたのむよ!」


ダグラスはそれにうなずいてから、言う。


「ひとつだけ、聞いてもいいか?」

「ああ、なんだい?」


「風が止まったとき、風見鶏はどの方向を向いていた?」



「そうだな、たしか………







西だ。」