まだ朝日が昇る前。
わずかに明るくなった町並みが青白く輝き、濃い霧が地面を這うようにして街中を包み込んでいた。
「…………行きますよ。」
囁くようにそう言って、ひとつの影が路地裏から飛び出す。
さらに後に続く影が、2つ。
コートを着ているらしい先頭の影から、手が伸びる。
その手にはロープが握られていた。
走り続けながら、その手がわずかに動く。
風を切る音を発しながら、その手がくるくるとロープを回す。
ひゅっ。
勢いをつけて投げられたロープは、先に取り付けられた金具が正確に異常な高さの城壁へ引っかかる。
走り続けたままの影が、地面を強く蹴る。
まるで飛ぶようにして、一足飛びだけで高い城壁の真ん中あたりへと影は飛びついた。
またひとつ飛び、影は城壁の上へ。
登りきった影が、ロープを背後へと投げる。
後ろを着いていた2つの影のうちひとつが、そのロープを掴み、同様に飛びながら壁を登る。
しかしそこで、
「………なんだ?」
少し遠くから、わずかに人の声が聞こえてくる。
まだ壁に登っていない3つ目の影が、弾かれたように振り向く。
どんどん近づく、声。
先頭を走っていた影が、またロープを投げる。
3つ目の影がそれを掴んだ途端、彼はロープを強く弾く。
さらに同時に、
『リィラ』
そう小さくつぶやくと、ロープに引かれる3つ目の影を押し上げるようにして、強い風が吹く。
風とロープを引く力で、ふわりと3つ目の影も壁の上へ舞い降りる。
「いま人影が見えなかったか?」
「いや、そんなことは………」
見張りの兵士が城壁に辿り着いたころには、そこには静かな霧だけが残されていた。



