とくに厳しい検問があるわけではない門を抜け、2人の旅人がミルドナに入ってきた。



もともとたくさんの旅人や遊牧民の行き来が多いミルドナでは、今日も様々な格好をした人々が門を行き来しているため、2人の旅人も特に目立つわけではない。


しかし、賑やかな街の中で人目をしのぐように静かに進む2人は、ある意味異質な雰囲気を放っていた。


2人は旅人用の丈夫なコードのフードを目深に被っており、顔は見えない。



その2人は、真っすぐに宿へと入って行った。






行商のものがたくさんやってくるミルドナには、宿屋もたくさんある。

ミルディー亭は、その中でも比較的小さめの、家族で経営する宿屋だ。

食堂も兼ね備えたミルディー亭は、昼時のいまの時間小さな食堂にたくさんの人が押しかけ、笑い声や食器の当たる音が響く賑やかさを見せていた。



少し錆び付いたドアが開き、ドアに付けてある鈴が楽しげに響き、食堂で慌ただしく動いていたミルディー亭の一家の娘、ナムが元気よく声を上げる。


「いらっしゃい!
お食事ですか?宿泊ですか?」

慣れたようにそう声を上げて、持っていた汚れものの皿をキッチンに起き、エプロンで手を拭きながらドアへと駆け寄る。


顔を上げドアに立つ客を見て、ナムは一度動きを止める。



客は2人だった。


2人とも足元まである長いコートをはおり、フードで顔が隠れている。

宿屋の娘のナムは旅人や商人は今までに何人も見てきた。

だがなぜかこの2人は雰囲気が少し違う……。




「部屋は、空いていますか?」




透き通るような少し高めの男の子の声に、ナムははっとする。

そして慌てて笑顔を作ると、


「ええ、空いてますよ。
2人分のお部屋をひとつでよろしいですか?」


それにさっき声を出したらしいほうの旅人がうなずく。

そしてフードを、とる。



フードを取ったあとに現れた顔は、予想外に、若い少年だった。