ダグラスはゆっくりと上半身を起こした。


体中に倦怠感がある。

節々が軋み、頭痛がする。



頭を押さえながら、ふと隣のベッドに目をやる。





そこには、あの青年が寝ていた。


紺色の長髪を解いた状態で、仰向けになって眠っている。


まるで死んでいるのではないかと思うほど、固く目を閉じて静かに横たわっていた。



ダグラスは彼の布団が呼吸するように上下するのを見て、ほっと安堵の息をつく。


青年の頭へ手を伸ばしたところで。











「おはようございます。」





澄んだ声が聞こえ、驚いて弾かれたようにその声の方を見る。


するとその視線の先、さっき主人がカーテンを開けて行った窓がいつの間にか開いていた。

その窓枠に器用につま先だけでしゃがんでいる人物。




「あ、時間的にはこんにちは、ですね。」



昼間の太陽の光を背中に浴びて、プラチナ色の髪をきらきらと輝かせながらレイシアが静かに笑う。




「ここは酒場だと、私たちは追われていると聞いた。」


ダグラスは簡単にそう言う。



レイシアはふわりと部屋に入ると、青年の寝ているベッドへと近寄っていく。


ベッドの側に立ち、細く長い指で魔法陣をすらすらと描く。

そのスピードは明らかに昨日見た青年の動きよりも速く、正確だった。



「ここの主人はああ見えてかなり信用できる情報屋でして。

王都に来てからいくらか世話になったんですよ。」


そう言っているうちに魔法陣が完成し、きらめく。

するとその魔法陣と同じ魔法陣がベッドの下の床に現れ、淡く輝く。



それを確認すると、レイシアはそのベッドの脇に腰を降ろし、まだベッドで半身を起こしたままのダグラスに向き合う。



「私たちが追われるのは当たり前でしょう?

王城に忍び込み、破壊した私たち。

反逆者ともとれるあなた。」



レイシアはダグラスを指差す。



それにダグラスは微かに目をふせる。


長年王家に忠誠を誓って生きてきたのだが、ついに追われる身となったことを実感する。