穏やかな昼下がり。
ダグラスはゆっくりと目を開いた。
視線の先は、ところどころにシミのある天井。
「目が覚めたかい?」
低くしゃがれた声が聞こえ、視線だけでその声の主を探す。
40代に見える男が、窓に取り付けられたカーテンを開けていた。
「……ここは…………」
思ったよりも声が出ない。
「酒場だよ。
まあ、酒場になってんのは下の1階だけで、ここは2階。
酔ったやつらを泊める部屋だから、好きに使いな。
下には降りて来るんじゃねぇぞ。」
そっけない口調で男が言う。
「酒場…………?」
いまいち頭がぼーっとしていて、状況が掴めない。
なぜ酒場にいるんだろうか。
昨晩はたしか…………
そこでダグラスは妙なことを思い出した。
女神と、悪魔と、天使。
嫌な、夢だったんだろうか。
「宿代はレイからもらってる。
必要なもんは揃えておいたからな。」
そう男が言い、一気に思い出す。
レイ。
レイシア・リール。
「彼は………レイシアはどこへ?」
そうダグラスが聞くと、男は無表情のまま答える。
「レイはついさっき出かけた。」
それから男は一度嫌そうにため息をついて、ダグラスへと近寄る。
「いいか?
面倒だから簡単に説明するが……
あんたらは今軍に追われてる。
それも極内密にな。
だから街ぐるみで危険なわけじゃあねぇが、外に出ればすぐに捕まっちまう。
レイが帰って来るまではおとなしくしてろ。いいな。」
そう言い放って男は部屋の出口へと向かう。
「俺だって職業柄、あんまり面倒には関わりたくないんだ。
だがレイのためだから泊めてやる。
そこんとこわかっとけよ。」
そこで男は部屋を出て行った。