そのレイシアにダグラスが駆け寄ろうとするが、それよりも先にあの青年がレイシアに近づき、抱き上げる。




「…………師匠。」


小さく静かに呼びかけるが、やはり起き上がる気配はなく、青年はレイシアの呼吸だけ確認する。




ダグラスもよろけながら立ち上がり、部屋を見渡す。



散乱した大量の本に、倒れる数人の兵士に、焦げたり破壊されたりする部屋の一部。


犠牲者は出ていないようだったが、もう取り返しのつかないことになっているのは確かだった。



今までは目の前の事件に必死で気付かなかったが、外は相当騒がしいことになっていた。


当たり前だろう。

突然王城のある一部屋から火の手が上がったり、眩しく輝いたりすれば、だれだって驚く。




さらには廊下の遠くのほうから、ドープが呼びに行ったらしい何十もの兵士の足音が聞こえてきている。







「…………。」



青年はゆっくりとレイシアを背中に担ぐと、すばやく魔法陣を描く。

それが一瞬きらめいたかと思うと、部屋の入口の床板が突然盛り上がり、入口をふさぐ。


さらにまた青年はぼろぼろになった窓へと近寄り、また魔法陣を描き、窓の下の方へ右手を伸ばす。。



するとその右手に向かって、大きな木の枝が伸びてきた。


ダグラスがそれに目を丸くしていると、青年はレイシアを担いだままその枝に飛び乗る。



「………あなたはどうするんです?」



部屋の方を振り返って、静かに青年が聞く。


ダグラスがそれに目を揺らすと、

「開けろ!!!」

部屋の外に来たらしい兵士たちの騒がしい声が聞こえ、部屋をふさぐ床板がすごい勢いで殴りつけられる。



「……死にたいんですか?」



もう一度青年にそう聞かれ、ダグラスは一度唇を噛み、枝へと飛び乗った。


枝はするすると王城の庭にある木の元へと戻っていく。




満天の星空だった。





どんどん離れていくあの部屋を見上げながら、ダグラスは夜空の美しさに目を細めたのだった。