レイシアは王城の前へとやって来ていた。
闇に溶け込むような黒装束に身をつつみ、暗闇でも淡く輝くプラチナ色の髪はフードで覆っている。
ある貴族の邸宅の庭にある高い木の頂上に近い枝にしゃがみ込んでいる。
緊張感はまったくないようで、路上に座り込む商人たちのように楽に座っていた。
「………。」
静かな表情で王城を見つめ、考え込むかのように微動だにしない。
しかしそこで、
『リィラ。』
レイシアは小さくそうつぶやく。
するとレイシアのすぐそばに、黄緑色の輝きで形作られた女が現れる。
レイシアにしか見えない、女神。
風の女神だ。
レイシアは彼女にすっと片手をのばし、微笑む。
「今晩は少し『選ばれしヒト』の意識が喰われるので……
そばにいてくださいね。」
言葉がわかるのかわからないのか、女神は妖艶に微笑んでレイシアに絡み付くようにゆらりと浮いている。
それを確認すると、レイシアはまた視線を王城に向ける。
途端にレイシアの身体中にどくんと脈が打つ。
黒装束からのぞくレイシアの首筋には、暗闇でもよくわかる闇よりも暗い黒の血管が浮き上がっていた。
レイシアはそれに口の端を上げ、小さく笑う。
「はは、は、『呪い』が反応してきましたね。
今日この日を、どれだけ待ち望んだか………」
そこでレイシアは立ち上がる。
枝を軽く蹴ると、次の瞬間には女神の力を借りて空高く舞い上がっていた。
耳の横をうるさく風が通り過ぎて行く。
山のごとく高くそびえる王城を遥か足元に見て、レイシアは目を細める。
力を操り、魔力を弱める。
途端にレイシアの身体がすごい勢いで下降をはじめる。
黒装束がはためき、悲鳴をあげる。
足元に近づく王城を見据えたまま、またレイシアは笑った。



