シギが宿に戻ると、すでにレイシアは部屋の中でくつろいでいた。
ベッドに仰向けに寝転がり、本を読んでいる。
「師匠、早かったですね。」
そう言って部屋に入るシギに、レイシアは身体はまったく動かさないまま声だけで答える。
「ええ、いくつか用を済ませただけですから。」
それを聞きながら、シギは部屋の隅のいすに腰を下ろす。
「師匠、今晩は王城へ忍び込むんですよね?
準備をしなくても?」
それにまたレイシアは身動きしないまま、
「必要ありません。
簡単ですから。」
と答える。
それにシギはひとつため息をついて、
「しかしそれならばせめて策を教えていただかないと……」
と言うと、レイシア驚いたように顔だけシギのほうを見る。
「いえ、今晩はあなたを連れて行くことはできません。」
そう言うレイシアにシギが拍子抜けな顔をする。
レイシアはまた視線を本へと戻し、そのままで口を動かす。
「あなたが王城へ行けば、またいつカリアとファギヌの記憶が暴れだすかわかりません。
さすがにあなたを守りながら進むのは厳しいので……
あなたはお留守番です。」
それにシギが不満げに口を開こうとするので、レイシアはそれをさえぎるようにして言う。
「あなたには別にやってもらうことがあるんですよ。」
それを聞いてシギが口を閉じる。
その様子を感じとったようにレイシアは身体を起こし、ベッドの縁に座る。
シギのほうをまっすぐに見つめる。
「あなたにやってほしいことはただ1つ。
まずはそのカリアたちの記憶を手なずけてください。」
「手なずける……?」
レイシアはうなずく。
「はい。
記憶に潜って、まだ今回のように解放されずにいた記憶を解放してください。
そうすれば頭痛に悩むこともありませんし、おそらく『選ばれしヒト』についての知識を得ることにもなる。
そうすれば私に着いて旅をするのが多少は楽になるでしょう。」
シギはうなずきながらそれを聞く。



