女性を見送るレイシアの背中を、シギは木の上からつまらなさそうに見つめていた。
あのあと何度か魔法陣を描いて会話を聞こうとしたが、そのすべてが発動する前にレイシアに解除されてしまった。
近いとはいえ多少距離の開いた場所から、手首を軽く動かすだけで魔法陣を解除してみせるレイシアの魔力には感心するが、自分の無力さにため息をつくしかない。
するとそこでやっとレイシアが本を抱えて木の下までやってきて、シギを見上げて、
「もう降りてきていいですよ。」
と微笑むので、シギはおとなしく飛び降りた。
降りるなりレイシアは一冊の本を軽くシギの頭に乗せ、
「あなたもまだまだですねぇ。」
と笑うので、シギはふてくされて本を受け取った。
「なんなんです?聞かれたくない話でもしていたんですか?」
「はは、いえ、そんなことはありませんよ。
あなたの魔術の練習も兼ねてみました。」
「師匠にはかまいませんよ。」
「そう怒らないでください。」
すねたようなシギにレイシアは笑って、歩きだすように促して2人は並んで歩きはじめる。
日はまた少し傾いて、オレンジの夕日に照らされていながら、西はもう青く暗くなりはじめていた。
「で、あの女性はだれなんです?」
シギがそう聞くと、レイシアはシギに渡した本の表紙をを開くように言った。
本を開くと、そこにはレイシアがさっき女性から受け取っていた小さな紙が挟まれていて。
シギはそれを開いて見つめながらつぶやく。
「ラズベル?」
「そう。彼女はティアーナ・ラズベル。
この王都の中でも最有力な貴族のうちのひとつと言われるラズベル公爵のひとり娘です。」
「公爵?なぜ貴族がシャムルに?」
「さあ。それは本当にただの気まぐれでしょう。
ただ、彼女が今日ここに来ることはわかっていましたが……。」
「わかっていたんですか。」
「ええ、まあ。
あるルートから彼女の今日の行動を聞きまして。おそらくこの公園に、この時間に来るだろうとは思っていましたから、待ち伏せしました。」
「あるルート、ね。」
「はい。」
にっこりと微笑むだけで、それ以上何も言わなさそうなレイシアにシギはため息をついて、紙を挟んで本を閉じながらシギは話を続けた。
「それで?彼女と会う目的はなんだったんです?」
するとレイシアは立ち止まって、ある方向を指差した。
シギがそっちを見つめると、いつの間にか背の高い美しい造形をした柵の目の前まで2人は来ていた。
柵の向こうには美しい庭が広がり、そのさらに奥にはガラス張りの大きなドームが見える。



