zinma Ⅲ





女性が合図をすると、執事が何やら紙を取り出してメモをしていき、その横で女性は話を続ける。



「えぇ、お相手。

近頃は面白い出来事もなくて暇をしてましたの。

私に何か話題を提供していただくだけで結構ですわ。」


「話題、ですか。」


「そう。

その本、ずいぶんと難解な本をお読みでしょう?

『古文書読解学』だなんて、この王都でも読みきれる者は少なくてよ。」




くすりと微笑んでレイシアを試すように見つめてくる女性に、レイシアは苦笑いをこぼした。


「これはこれは……
なかなか目ざとい方ですね。」

「ふふ、恐縮ですわ。」


女性は執事が書ききったらしい小さな紙を受け取ると、それをさらに小さく折り曲げながら続ける。



「その若さでそれほどの知識をお持ち、さらにはマナーも完璧とあっては、あなたに興味がわきましたの。

あなたが蓄えられた知識のお話でも聞かせていただけません?」


長い美しい金髪を揺らしてレイシアを見上げる女性に、レイシアはお手上げとばかりに肩をすくめて笑った。



「なるほど。私なんかでよければ、了解しました。」

「ふふ、よかった。」



女性は指の先に挟んだ小さな紙をレイシアに差し出す。



「明日のこの時間に、またこの公園でお待ちしていますわ。

私の自宅の場所も書かせておきましたから、暇な時間にこちらに来ていただいても構いません。」


「受け取りましょう。
しかしラズベル公爵のあの豪勢な邸宅ならば、私も知っていますよ、ティアーナ・ラズベル様。」


「あら、家も名前もご存知なのね。」


「有名ですからね。あの邸宅の優美さも、ティアーナ様の美しさも。」


「ふふ、お上手。敵いませんわ。」


「はは。」




ベンチの前に静かに現れた執事に手をひかれて立ち上がるティアーナに、レイシアも本を置いて立ち上がる。



「では明日、楽しみにしてますわ。」

「こちらこそ。」



そう言って微笑んで立ち去るティアーナが、ふと足を止めて振り向いた。


「そうですわ。お名前、聞いてませんでしたわね。」


「ああ……。ルイナ・リールと申します。」


「ルイナ様。それでは。」




小道を歩いていくティアーナにもう一度軽く頭を下げて、レイシアは口の端を上げて笑った。