女性が合図をすると、執事が何やら紙を取り出してメモをしていき、その横で女性は話を続ける。
「えぇ、お相手。
近頃は面白い出来事もなくて暇をしてましたの。
私に何か話題を提供していただくだけで結構ですわ。」
「話題、ですか。」
「そう。
その本、ずいぶんと難解な本をお読みでしょう?
『古文書読解学』だなんて、この王都でも読みきれる者は少なくてよ。」
くすりと微笑んでレイシアを試すように見つめてくる女性に、レイシアは苦笑いをこぼした。
「これはこれは……
なかなか目ざとい方ですね。」
「ふふ、恐縮ですわ。」
女性は執事が書ききったらしい小さな紙を受け取ると、それをさらに小さく折り曲げながら続ける。
「その若さでそれほどの知識をお持ち、さらにはマナーも完璧とあっては、あなたに興味がわきましたの。
あなたが蓄えられた知識のお話でも聞かせていただけません?」
長い美しい金髪を揺らしてレイシアを見上げる女性に、レイシアはお手上げとばかりに肩をすくめて笑った。
「なるほど。私なんかでよければ、了解しました。」
「ふふ、よかった。」
女性は指の先に挟んだ小さな紙をレイシアに差し出す。
「明日のこの時間に、またこの公園でお待ちしていますわ。
私の自宅の場所も書かせておきましたから、暇な時間にこちらに来ていただいても構いません。」
「受け取りましょう。
しかしラズベル公爵のあの豪勢な邸宅ならば、私も知っていますよ、ティアーナ・ラズベル様。」
「あら、家も名前もご存知なのね。」
「有名ですからね。あの邸宅の優美さも、ティアーナ様の美しさも。」
「ふふ、お上手。敵いませんわ。」
「はは。」
ベンチの前に静かに現れた執事に手をひかれて立ち上がるティアーナに、レイシアも本を置いて立ち上がる。
「では明日、楽しみにしてますわ。」
「こちらこそ。」
そう言って微笑んで立ち去るティアーナが、ふと足を止めて振り向いた。
「そうですわ。お名前、聞いてませんでしたわね。」
「ああ……。ルイナ・リールと申します。」
「ルイナ様。それでは。」
小道を歩いていくティアーナにもう一度軽く頭を下げて、レイシアは口の端を上げて笑った。



