淡くオレンジ色に照らし出されているシャムルの街を、レイシアは悠然と歩いていた。
なんとか人通りの多い路地を抜けると、レイシアは慣れた足取りで大きな公園へと入る。
シギがそのあとを一歩後ろから追っていると、レイシアはきょろきょろと辺りを見回し、足を止めた。
「師匠、何か………」
「『ズレイマ』。」
シギの声を遮って聞こえたレイシアの不思議な発音に眉をひそめると、突然何かに足を引っ張られ、身体が浮き上がる。
「なっ………。」
気づいたころには、なぜか近くにあった木の枝の上にいて。
足を見ると、生き物のように動く木の枝がシギの足を引っ張っていたようで、するするとシギの足を離して元に戻っていった。
下を見てレイシアに何か言おうとすると、レイシアはシギのほうを見上げて、本を抱えていないほうの手の人差し指を唇に当てている。
それにシギが黙り込むと、レイシアは口だけで微笑み、踵を返してどこかに歩いて行った。
レイシアはシギのいる木から少し離れた場所にあるベンチに座ると、持っていた本のうちの一冊を取り出して読みはじめる。
あまりにもくつろいだ様子にシギが怪訝に思っていると、ベンチのある小道の奥から、2人の男女が歩いてくるのが見えた。
どうやら家柄の良い家の娘と、その執事らしい。
美しく着飾った20歳過ぎほどの女性と、その一歩後ろを歩く年老いた執事は、レイシアを目にとめるとレイシアの前で立ち止まった。
何やら口を開く女性にシギが会話を聞こうとすばやく魔法陣を描いて発動するが、それと同時にレイシアが小さく手を振り、魔法陣を跳ね返す。
驚いているシギをよそに、レイシアは品の良い微笑みを浮かべて女性にぺこりと会釈した。
「お隣り、よろしくて?」
「えぇ、もちろんです。」
女性の気立ての良さそうな上っ面だけの微笑みにレイシアがうなずくと、女性はレイシアの隣に腰掛け、執事はそのベンチの後ろに静かに立った。
レイシアは女性が座るのを確認すると、にっこりと微笑んで声をかける。
「こんにちは。お散歩ですか?」
「ええ。久しくシャムルには来ていませんでしたので。」
「それはそれは。
この公園は特に美しいですからね。」
「私もそう思いますわ。」
女性は同じくレイシアに微笑み返すが、その瞳には冷たい光りが宿っている。
レイシアはその瞳を見つめ返すと、立ち上がって小道を挟んだ向かいの花を一輪摘む。



