あれから、私は、どうやって、この部屋にたどり着いたのか


よく覚えていない・・



翼に買ってもらった服は雨にぬれて、


びしょびしょになっていた。


あの時、


激しさを増してきた雨の中で



止まったバスに背中をうなだれて乗り込んだ



翼の後姿だけが、



目に焼きついている――




まだ、実感していない



翼と別れたという事実も


翼と兄妹だという事実も




全てがどうでもよくなってた・・





その日、沢山家の本宅で食べた豪華な夕食の味も

私は何も感じられなかったんだ。


始めて会ったおじいさんは、厳しそうな人だったけど

私を見て、跡継ぎが見つかったって・・

喜んでたっけ・・


翼は?翼はどうなるの?

病気だから―

限られた命だから―

跡継ぎじゃないの???


ごめんね・・翼

私来なければよかったね。ココに。






翼が居たからだった―




この世の中に生きる光を見出せたのは・・



空の青さに感動することも



夏子さんの料理の味に舌鼓をうつことも



あなたの存在があったからこそだったんだと思う。



兄―



近くてとてもとても遠い存在だね・・