浴衣の帯をほどく前に、もう一度鏡の前に立つ。

『樋山に合ってると思う。』

笠原くんのその言葉と、赤くなった耳を思い出す。

胸の奥から笑みが溢れてくる感覚がして、頬が綻ぶ。

この浴衣にして良かったな…。


ふと机に視線を向ける。

写真立てに飾った一枚の写真。

小学校の修学旅行の時の集合写真。

宿の前で撮ったその写真には、偶然隣同士になった私と笠原くん。

中3の今とは違って、2人とも幼い。

修学旅行の夜に『大和くんって楓のことよく見てるよね』って同じクラスの女の子に言われて、それで一気に意識してしまった。

自分でもすごく単純だと思うけど、"恋"というものを意識し出すと笠原くんの何気ない仕草さえ特別に見えた。

いつの間にか目で追っていて、もっともっと話したいって思うようになった。

もっと私に構って欲しいって…。


私の気持ちはあれから3年経っても、すこし色褪せてない。

ううん、むしろあの頃は"気になる"だったのが今は"好き"になっている。

優しいところとか、一緒にいて心が温かくなるところ…。

いろんなところを発見したんだ。


もっと笠原くんのこと知りたいな。

そして私のことも知って欲しい。


この写真のようにずっと隣にいたいな…。