来る…
そう思ったのとほぼ同時に、私の下げた視界の端に、ちらりとつま先が見えた。
「如月」
グイと顎を掴まれ、無理やりに上を向かされる。
一気に開けた視界の先には、端正な顔立ちをした一人の男。
私と目が合うと、男はフッと微笑み、その形の良い唇を開いた。
「なぜ呼ばれたか…分かっているな?」
威圧的なその問いに、私はぴくりと眉を上げた。
わざわざ聞かなくたっていいじゃない。
頭の端に過ぎる昨夜のことを追い払うように、私は口を動かす。
「…いいえ。皆目見当もつきません」
よく言ったわ、私。
もういつもの流される私じゃないの。
強気よ、強気。

